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阪神・矢野燿大監督、冷静と興奮の狭間で

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サヨナラ満塁本塁打の高山(手前)と抱き合い、大喜びの阪神・矢野監督=甲子園

白球つれづれ2019~第22回・矢野ガッツ


 “矢野ガッツ”。いま関西地方では、この言葉が阪神急浮上の合言葉になっているとか。

 今季から新監督に就任した矢野燿大が歓喜の瞬間に繰り出すガッツポーズのことだ。試合終了時ならともかく、同点打や逆転打が飛び出した時や、ピンチでリリーフ陣が無失点で切り抜けた時など、指揮官自らベンチ前に飛び出してガッツまたガッツ。なかなかこんな監督はお目にかかれない。

 「我が弟子、いい指揮官になる」と語る元阪神監督・野村克也も「あれはいただけない。監督たるもの、喜ぶ暇があったら次の戦略を考えなければ」と眉をひそめる、ど派手なアクション。だが、矢野に改める気はさらさらない。

「もう、(矢野ガッツを)しまくって思いきり楽しみたい。選手たちとファンの人と、甲子園をそういう雰囲気に包みこめるような野球をしたい」

 今季から前監督の金本知憲に代わって一軍監督に就任した。金本とは東北福祉大のチームメート、そんな縁もあって4年前の金本政権誕生時に一軍作戦兼バッテリーコーチとして入閣している。昨年はその金本から離れて二軍監督を任されると、チームは前年ウエスタンリーグ最下位から6年ぶりの優勝。一軍が記録的な大敗で17年ぶりの最下位に沈んだのとはあまりに対照的な結果も、矢野の一軍復帰を後押しした。


新指揮官の大方針


 新監督のチーム方針には5カ条がある。

 「チームの勝利」などとともに矢野らしさを窺わせるのが、「喜怒哀楽」の項だ。二軍監督時代には、選手に試合後のヒーローインタビューやファンに対するスピーチを行わせた。甲子園ではない。鳴尾浜で腕を磨くファームの選手にも、喜びを素直にぶつけ、自分の言葉で語ることで自主性を植え付けようとしたのだ。

 監督自らが喜びを爆発させて、苦楽も共にする。そんな矢野流は、ともすれば首脳陣やファンの目に委縮していた金本時代のおとなしい選手たちに、新たな野球の喜びを教えたのかもしれない。

 4月は13勝14敗1分け。とりわけ巨人には開幕から6連敗と低調な滑り出しだったが、5月に入ると15勝9敗と上昇機運をつかむ。中でも昨年はホームゲーム(甲子園以外の主催ゲーム含む)で27勝42敗2分けと大敗、これが金本退陣にもつながったのだが、今季は6月3日現在で15勝14敗と大きく改善。特に5月は10勝6敗だった。交流戦を前に、広島に次ぐ2位と躍進し、ファンも“矢野ガッツ”に大満足だ。

 もっとも、矢野の球歴を見れば、だだ、浮かれるばかりの指揮官でないことはわかる。中日入団時には正捕手に中村武志がいて、レギュラー奪取までには時間がかかった。ようやく不動の地位を築いたと思ったら当時の中日監督である星野仙一から阪神へのトレードを告げられる。その阪神で野村克也の薫陶を受けたら、今度は星野が阪神に乗り込んでくる。

 当時の心境を矢野は「また、星野さんに捨てられてしまう」と危機感を募らせたことを述懐している。だが、野村に冷静な野球眼を、星野からは激しい魂の野球を体得したことが、今の采配に生きているのだから、人の巡り合いは面白い。

 交流戦前の総括として、矢野はチームの最大殊勲者として梅野隆太郎の名をあげた。左足薬指の骨折をおしてチームを引っ張るキャプテンの働きは文句なしだ。加えてルーキーの近本光司がリードオフマンとして塁上を駆け回り、4番の大山悠輔にも凄みが増してきた。こうした「矢野チルドレン」もまた、ガッツポーズを連発、確かに今年の阪神は一味違う。

 しかし、交流戦には苦い思いもある。昨年は6勝11敗1分けで12球団中11位に沈んでいる。もともと、パリーグ優位が続く交流戦でどれだけの戦いが出来るのか? 試金石とも言える6月の陣である。もちろん、“矢野ガッツ”の回数が増えてくれば、白星ロードも見えてくる。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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