高卒出身の投手が躍動
今季のロッテは、ここまで6年目の二木康太がチームトップの6勝、8QS、5年目の岩下大輝が74回1/3を投げて防御率3.27、3年目の種市篤暉はチーム2位タイの4勝を挙げるなど、前半戦は高卒でプロ入りした若手先発陣の活躍が目立った。
岩下はドラフト3位での入団ではあるが、二木と種市は同6位でプロ入りと、ドラフトの順位は決して高いわけではなかった。ドラフト下位で入団した投手も、一軍で活躍している背景には“1年目の体づくり”によるところが大きい。
他球団の高卒投手は、1年目から一軍や二軍で実戦経験を積むことが多い。楠貴彦コンディショニングディレクター兼育成総括が「高校からいきなりプロのローテーションで回るというのは、かなり体に負担がかかると思います」と話すように、ロッテの高卒1年目の投手は、まずはプロの体を作ることを重点に置く。
二木によると「ランニングの前にランニングフォームをしっかりやろうというところだったり、基本中の基本を最初にやっていくという感じでした」と一から徹底的に指導を受けたという。楠コーチは「野球の動きに役立つようなランニングフォームであったりを指導するように言っていますね」と話す。
種市も同様に「自分もランニングフォームが良くないので、コーチには毎回言われていました」と明かし、岩下は「1年目は、キャンプくらいから肘を痛めてしまったので、3、4ヶ月ずっとランニングでした。陸上部の倍、走っているんじゃないかなというくらい走っていました」と当時の練習のキツさを振り返った。
プロ野球選手としての体を作るため、高卒1年目の投手はランニングやウエートトレーニング、体幹トレーニングなどを徹底的に行っている。そのため、近年のロッテの高卒1年目の投手は一軍での登板はほとんどない。
二木はプロ入りから6年で20キロ体重アップ
マリーンズの若手投手は、ガッチリとした体の投手が多い。
二木は「自分の場合はすごく細かったので、体重を増やしていくことを第一にやっていました」と、体重はプロ入りから6年で20キロ近くまでアップ。
3年間は体作りと話していた成田翔は「体は大きくなったと思います。体が大きくなったことで、球に強さが出てきたと思う」と入団時69、70キロだった体重は79キロと10キロ近くアップした。
現在は「3年間で体重は増やせられたので、今は体重が減らないようにしっかり維持して、あとは結果が出せればいいかなと思います」と体重を減らさないよう心がけている。
3年目の種市は「ウエートトレーニングは3年っていいましたけど、まだまだやらなきゃいけないなと思っています。技術も大切ですけど、体ももっと鍛えていけない」と現在は体重アップよりも、筋力量を増やすことをメインに取り組んでいる。
高卒1年目の古谷拓郎は「プロで活躍する選手は強い体と大きい体が必要だと思います。ただ太るだけではなくて、筋肉量もしっかり増やしていきたいと思います」とプロの体を作っている最中だ。
プロとしての心構えも指導
体づくりだけでなく、プロとしての心構えを植え付けている。
小野晋吾二軍投手コーチは「やり続けることというか、練習への意識の持ち方、取り組み方を常々言っています」と口酸っぱく伝えている。
ロッテの若手投手陣を見ても、今の自分に何が必要かを考えることのできる選手が多い。小野コーチも「考え方だったり、意識は大事なことだと思う。そういうものをしっかり持っている選手は伸びていく。何も考えずにただ言われたことだけを、こなしている選手はなかなか伸びていかないというものもある。常々自分で考えて取り組むように言っています」と話す。
種市を例にすれば、一軍デビュー前の昨季、一軍の先発投手が遠征に帯同せず二軍のロッテ浦和球場で練習しているときに「見ているだけで勉強になります。最後までずっと見ていましたね」と先輩投手のブルペンを見学。先輩投手から吸収しようとする姿を何度も見てきた。
その姿勢は、後輩にも受け継がれている。ルーキーの古谷は、石川が二軍で調整しているときに、「どういうトレーニングをしているんですかと聞いて、マンツーマンで教えてもらいました。少しだけですけど、股関節周りのトレーニング。フォームのときにどういうことを意識しているか知れただけでも、なかなか一軍の選手がここにいる機会はないので、聞けたのはよかったです」と目を輝かせながら教えてくれた。
古谷は二軍で登板しているワケ
探究心旺盛の古谷だが、二木以降1年目は体づくりがメインで、夏場に実戦デビューを飾り、10月のフェニックスリーグで実戦経験を積んでいくというケースが多いなか、すでに二軍で6試合に登板し3勝を挙げている。
今年の高卒新人投手も、これまでと同じ流れで育成していくのか小野コーチに質問すると「(実戦登板が)前倒しになる可能性もあるけど、まずはプロの体になってもらわないといけない。プロの体作りがメインになってくると思う」と2月26日の取材の段階では、種市、島らの新人時代と同じようにじっくりとプロの体を作っていく方針だった。
古谷は予想を上回るペースで成長を続け、5月5日の巨人との二軍戦で公式戦デビュー。小野コーチは「キャンプから土台作りをしていく中で、予想以上にいい状態で投げられていますし、体づくりができてきているので、この段階で先発という形」と話し、古谷は6月12日の楽天との二軍戦でプロ初先発。7月8日の日本ハムとの二軍戦では、プロ入り後最多の86球を投げ、5イニングを1失点に抑えた。
小野コーチによると、高卒1年目の登板数とイニング数は「そこは決めていないし、決められていない」と話すが、球数については「その日の状態だったり、古谷に関しては少し(球数が)いきすぎないように(球数を)見ながらやっています」と球数管理を徹底している。
二木、岩下、種市といった高卒投手が一軍の先発ローテーションで投げ、二軍にも成田、島、古谷といった楽しみな高卒出身の投手が多い。その背景には、1年目の体づくり、選手たちの思考力が大きく関係しているだろう。彼らが順調に成長を続ければ、投手王国と呼ばれる日もそう遠くない未来に訪れそうだ。
二木以降の高卒投手たちの成績
▼二木康太
1年目:一軍登板なし
1年目:2試 0勝0敗0S 2回 防4.50(14年)※
2年目:1試 0勝0敗0S 5回 防1.80(15年)
2年目:26試 3勝3敗0S 94回 防3.45(15年)※
3年目:22試 7勝9敗0S 116回1/3 防5.34(16年)
3年目:1試 0勝1敗0S 6回 防6.00(16年)※
4年目:23試 7勝9敗0S 143回1/3 防3.39(17年)
4年目:5試 1勝2敗0S 27回 防2.67(17年)※
5年目:16試 4勝7敗0S 100回2/3 防3.93(18年)
5年目:9試 5勝3敗0S 47回 防2.87(18年)※
6年目:14試 6勝5敗0S 90回 防3.40(19年)
6年目:1試 0勝0敗0S 5回 防1.80(19年)※
▼岩下大輝
1年目:一軍登板なし
1年目:2試 0勝0敗0S 2回 防4.50(15年)※
→15年11月にトミージョン手術
2年目:一、二軍登板なし
3年目:一軍登板なし
3年目:15試 3勝3敗0S 40回 防2.48(17年)※
→17年11月に腰椎椎間板ヘルニアの手術
4年目:18試 1勝3敗0S 25回2/3 防4.56(18年)
4年目:17試 2勝3敗1S 43回1/3 防6.65(18年)※
5年目:13試 3勝2敗0S 74回1/3 防3.27(19年)
5年目:2試 1勝0敗0S 11回 防1.64(19年)※
▼成田 翔
1年目:一軍登板なし
1年目:7試 0勝0敗0S 18回 防6.00(16年)※
2年目:4試 0勝2敗0S 12回1/3 防4.38(17年)
2年目:19試3勝3敗0S 62回 防3.05(17年)※
3年目:5試 0勝0敗0S 4回 防4.50(18年)
3年目:27試 1勝1敗2S 35回2/3 防3.53(18年)※
4年目:一軍登板なし
4年目:33試 2勝2敗2S 29回1/3 防2.45(19年)※
▼原 嵩
1年目:8試1勝4敗0S 20回 防4.05(16年)※
2年目:13試0勝4敗0S 37回2/3 防8.36(17年)※
→17年11月に右肩鏡視下手術および右肘神経移行術
3年目:登板なし
4年目:10試 1勝1敗0S 12回 防6.00(19年)※
▼島 孝明
1年目:3試0勝0敗0S 1回2/3 防43.20(17年)※
2年目:11試 0勝0敗0S 11回2/3 防10.80(18年)※
3年目:19試 0勝1敗0S 17回2/3 防2.04(19年)※
▼種市篤暉
1年目:一軍登板なし
1年目:1試0勝0敗0S 1回 防0.00(17年)※
2年目:7試 0勝4敗0S 38回1/3 防6.10(18年)
2年目:12試 1勝4敗0S 40回1/3 防5.13(18年)※
3年目:16試 4勝1敗0S 52回1/3 防3.96(19年)
▼森遼大朗(育成)
1年目:1試 0勝0敗0S 1回 防0.00(18年)※
2年目:12試 1勝1敗0S 21回 防6.86(19年)※
▼古谷拓郎
1年目:6試 3勝1敗0S 20回 防4.05(19年)※
▼土居豪人
1年目:2試 0勝0敗0S 3回 防0.00(19年)※
※はファーム成績
データは2019年7月12日時点
取材・文=岩下雄太