◆ 過去2人しかいない偉大な記録…
気がつけばいつも、大記録のそばに男はいる――。ヤクルトの山田哲人がプロ野球史上3人目の「35-35」にあと2盗塁と迫っている。
おそらく本人にその意識やこだわりはないが、『35本塁打・35盗塁』は、長いプロ野球の歴史の中で1953年の中西太(西鉄)、1987年・90年の秋山幸二(西武)の2人しか達成していない偉大な記録だ。打者としてだけでなく、走者としても一流でなければならない。誰もが理想とするプレイヤー像の証だけに、実現できる選手は多くない。
4度目のトリプルスリーを期待されて迎えた今季、残り1試合で山田の打率は.273。その可能性は消滅したが、ここまで、本塁打(35本)と盗塁(33盗塁)では立派な成績を残している。
だが、個人の記録がそのままチームの勝利に直結するかというと、そうではない。9月23日の巨人戦(神宮)で節目の35号を放ったが、チームは終盤に逆転を許し敗戦。クラブハウスに引き上げる山田に笑顔はなかった。
それでも8月31日の中日戦(ナゴヤD)では、2-2で迎えた延長10回・二死一、二塁の場面で左中間スタンドへ決勝の3ラン。勝ちに貢献できたことを素直に喜ぶ山田の姿があった。さらに、9月4日の広島戦(神宮)では通算200号となる節目の一発をサヨナラ満塁弾で飾り、チームを勝利に導くと「自分で決めるという強い気持ち」だったことを明かした。
◆ 「足の力で勝つ野球もある」
昨季から続いていた連続盗塁成功の新記録も樹立した。8月23日の阪神戦(神宮)の初回に二盗を仕掛け、33連続盗塁に成功。プロ野球新記録を打ち立てた山田は「守備や打撃だけでなく、足でもしっかり貢献したい。足の力で勝つ野球もある」と力を込めた。
このまま成功率100%を維持するのかと思われたが、9月14日のDeNA戦(横浜)でその記録は無情にも途絶えた。初回、二死の場面で二盗を試みたが、DeNAの捕手・伊藤光の肩に阻まれ、連続盗塁成功記録は「38」でストップ。山田の右足が二塁手・ソトのタッチより先にベースに到達していたかにも見えたが、判定はアウト。試合後、いつもは冷静な男が珍しく感情を表に出した。
「足が入って確実にセーフだと思ったし、タッチしたソトもセーフと言っていた。すごい悔しいかたちでアウトになって、コメントのしようがない」
さらに「気分的にはより一層、積極的に行けるとプラスに考えることしかできない」と最後まで悔しさをにじませた。だがこれも、盗塁への熱い思いがあるからこそ。そして、勝利への貪欲な姿勢から生まれた言葉でもあると感じた。
28日、最下位が確定したヤクルトは、本拠地の神宮球場で迎える今季最終戦が控える。この1試合で2盗塁を決めれば、また一つ、球史にその名を刻むことになる山田。背番号1の挑戦はまだ終わっていない。
文=別府勉(べっぷ・つとむ)