体づくりに励んだ1年目
「大谷投手のように分かっていても(打者が)振り遅れるストレートを投げてみたい」。
今から4年前の2016年12月13日のマリーンズの入団会見でこのように決意を述べていたロッテの種市篤暉だが、今ではそのストレートでパ・リーグの強打者たちをバッタバッタと三振の山を築くまでに成長した。将来はマリーンズのエースのみならず、球界を代表するエースになるに違いない。
高卒1年目の17年は、ランニング、ウエイトトレーニング、体幹トレーニングといった体づくりが中心で、ファームの試合前練習の後も、サブグラウンドで黙々とダッシュを繰り返していた印象が強い。ファームでの登板は、1試合のみと、体づくりに多くの時間を費やした。オフには『2017アジア・ウインターリーグ・ベースボール(AWB)』に参加し実戦を積んだ。
徐々に成果として現れ出した2年目
日々のトレーニングの成果が徐々に、“数字”として現れ出したのが2年目。「ストレートのアベレージが凄くあがりました。これまでは140キロぐらいのアベレージだったのが、45になりました。今では5キロくらいアップして、150キロも出せるようになりました。ウエイトトレーニングも良かったと思いますし、ウインターリーグで試合ができたのが良かったかなと思います」と話したのが2018年4月15日だ。
またこの日は、当時一軍が遠征をしており、一軍の先発ローテーションの投手がロッテ浦和球場で調整をしていた。ちょうどこの日、ある一軍先発投手がブルペンで投球練習していた。種市は「見ているだけで勉強になります。真っ直ぐのスピードであったり質であったり、コツというか投げ方を教わっていたので、そういうのを最後までずっと見ていましたね」と先輩のストレートを見て勉強した。
同年6月22日にZOZOマリンで行われたDeNAとの二軍戦に先発し、初回に大河(現琉球ブルーオーシャンズ)を外角の150キロのストレートで見逃し三振に仕留めれば、同年7月12日には地元・青森で行われたフレッシュオールスターで、「青森で過ごしてきて、2年前よりも成長した姿を見せたいと思って投げました」と3番・川瀬に投じた初球に自己最速となる153キロを記録した。
「先発でもすごいアベレージが上がったと思います。5回を投げたとしても球威は落ちますけど、昨年(17年)に比べたら比べものにならないくらい成長したと思います」。
「(ストレートの)回転数は4月、5月くらいは平均より低かったんですけど、テイクバックを変えたら回転数もあがりました。そのおかげでファウルも空振りも取れていると思います」。
「今年(2018年7月時点)の平均は46だったと思うので、去年に比べたら出せますし、出そうと思ったら出せる状態なので、そこはいいかなと思います」。
小野晋吾二軍投手コーチは当時、種市について「彼の場合は、去年(17年)から意識を高くもって毎日コツコツやっていた。それが形となって少しずつ現れてきていると思います。下半身が大きくなってきたので、すごく良い傾向。順調にこなしていってくれているというか、順調にきていると思います」と、太鼓判を押していた。
一軍デビューも…
ファームでメキメキと成長していた種市は、同年8月12日のオリックス戦で一軍デビューを果たす。同年一軍で7試合に先発登板し、10月2日のソフトバンク戦ではプロ初完投するも敗戦投手に。結局、この年はプロ初勝利を挙げることができなかった。
種市は「(井口監督から)投球スタイルとしてもっとガンガン押せるピッチャーになって欲しいと言われました。自分もそういうピッチャーになりたいと思っていましたし、一軍ではそれができていなかった」と反省。
1年目のオフはウエイトトレーニングやランニングなどを中心に行ったが、2年目のオフは体作りとともに、「鴻江さんから教わったことを1年間やろうと思っています」とソフトバンク・千賀滉大らが行っている自主トレに参加し、体の使い方など様々なことを学んだ。そして、ストレートにもある変化があった。
種市の18年との違いにイチ早く気が付いたのが、昨季“柿の種バッテリー”で話題を呼んだ柿沼友哉だ。19年1月26日にロッテ浦和球場で行った自主トレで、ブルペンに入った種市の球を受けた柿沼は「もともと動くようなストレートの感じのピッチャーだったんですけど、あまり動かずに強さがさらに増しているように感じましたね」と18年との違いを分析。種市自身も「投げ方を教えてもらって、ムービングをしなくなったと思っていますね」と話した。
プロ初勝利の楽天戦でみせたストレート
練習試合、オープン戦ではワクワクするストレートで、一軍の打者を抑えていった。19年3月28日の取材で、一軍の打者を抑えられるようになったのはストレートがムービングしなかったのかと聞くと、「ムービング自体は悪いことではないですけど、自分は嫌っていました。ムービングしないことで、自分の中ではコントロールしやすいなと思いますし、空振りを取れているのもムービングしないからだと思います」と教えてくれた。
開幕してからも力強いストレート、フォーク、スライダーで強打者をねじ伏せた。昨季のストレートでいえば、プロ初勝利を挙げた4月29日の楽天戦、初回一死走者なしから田中和基に投じた初球のストレート、空振りを奪った2球目のストレートが素晴らしかった。
「めちゃくちゃ感触が良かったです。田中さんの1、2球目はできるだけ力を抜いて投げようと思って、トップをつくるまではリラックスしようと思って投げて、いい感じでボールが伸びていったと思います」。
「テイクバックの時点で力んでいたらやっぱり、球が沈んじゃう感じがしちゃう。自分の中ではそこですね。やらなきゃいけないところは。リラックスしてリリースのときにピュンと伸びるボールを投げなきゃいけないと思います」。
5月に入り、ストレートに悩む時期もあったが、それでも一軍の打者を抑えていった。19年5月26日の取材で種市は「(18年は)一軍に投げるレベルにはなかったかなと思いますし、単純にボールをコントロールできていなかった。ただ全力で投げてという感じだった。今は指にかかってはないですけど、変化は全然していないですね。たまにカットもしますけど、基本的に安定している」とその理由を語っていた。
前半戦が終了し、18年と同じようにストレートの平均球速、回転数について聞くと、「平均は46くらいとかじゃないですか。アベレージはあげられるだけあげたいです」と話し、「回転数というよりは、指のかかりを意識しています。今は回転数をあまり気にしていないですね」と明かした。
シーズン後半に入ると、ストレート、フォークだけでなく、叩きつけスライダーで三振を奪う場面が増えた。オールスター明けの奪三振数は、64回1/3を投げて82個の三振。そのうちストレートでの奪三振は27個だった。
ストレートへのこだわり
シーズン終了後に、ストレートについて聞くと「ストレートを軸で投げたいというのはある。常時150キロを投げたいです」と強いこだわりを見せた。
「ストレートでガンガン押していけるピッチャーになりたい。単純にかっこいいと思うので、個人的には27球のアウトより27個の三振が好き。理想なピッチャーになりたい。豪腕かっこいいし、三振取れる人もかっこいいしという感じのピッチャーになりたいです」。
「ストレートで三振が取りたい。変化球、変化球ってなっちゃうんですけど、あんまり変化球のことを考えすぎずに、オフはまっすぐのことを考えていきたいと思っています」。
実質2年目となる今季、相手チームのより一層の研究が予想される。持ち球にしているストレート、フォーク、スライダーを磨いていく必要があるのかと問うと、種市は「僕の場合はまっすぐを磨きたい。変化球も大事ですけど、もっとまっすぐを速くしたいなと思います。50後半とかになってきたら、キレとかも関係ないと思う。スピードをあげたい」とさらなるスピードアップを目標に掲げ、オフの自主トレに励んだ。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で3月20日に開幕が予定されていたプロ野球は再延期となった。先が見えない中で、1日も早くシーズンが開幕して、種市のストレート、ピッチングを見たいというファンが多いことだろう。私もその一人だ。プロ1年目から常にどのようになったらうまくなるか、良いボールが投げられるかなど、24時間野球について考えているように見える。新型コロナウイルス感染防止の観点から3月28日(土)からチームは現在活動休止中だが今頃、いろんな投手の動画を見て研究していることだろう。
「最速はもっと更新していかないと、いけないなと思っている。160キロを投げられるなら投げたい。160キロを目指しています。速いに越したことはないので」。1月の自主トレで熱くこのように話してくれた種市。日々のトレーニングでプロ入りから、ストレートのスピード、質をかなり上げている。160キロを超えるストレートを投げる日も、そう遠くない未来に訪れるはずだ。
取材・文=岩下雄太