元気がない“山賊打線”
予定よりも3カ月遅れてスタートしたプロ野球の2020年シーズン。いつもより少し短い120試合制のペナントレースも、あっという間に3分の1を消化しようとしている。
パ・リーグはソフトバンクと楽天が熾烈な首位争いを繰り広げ、ロッテ・日本ハム・西武の3チームが勝率5割近辺でAクラスを争うという様相。リーグ2連覇中の西武は、ここに来ての3連敗で5位に後退。投打ともに精彩を欠いた内容が目につく。
すっかり定着した“山賊打線”と呼ばれる超強力打線がチームの目玉。昨季もチーム打率.265はリーグトップで、174本塁打は2位だったものの、総得点756は12球団で見ても断トツ。西武相手では何点差あってもセーフティーではない、という印象すらあった。
ところが、今季はここまでチーム打率.238でこれがリーグ5位。本塁打35も3位タイと特筆すべき数字ではなく、総得点も4位タイ。投手陣、特に先発陣が不振の原因として挙げられることが多いなか、看板である打線もなかなか深刻な事態に陥っているのだ。
待たれる背番号7の帰還
開幕前から懸念されたのが、秋山翔吾の抜けた穴。長年チームのリードオフマンを務め、打線にスイッチを入れる役割を担っていた男は、夢を叶えて海の向こう・アメリカへと渡った。
その「1番・中堅」のポジションに代わって入ることが期待されていたのが、プロ8年目を迎えた金子侑司である。
今年の4月に30歳になったスピードスター。昨季は自己最多の133試合に出場を果たし、41盗塁で自身3年ぶりとなる盗塁王のタイトルも獲得。守備でもその俊足を活かした好プレーを連発し、それこそ左中間コンビを組んでいた秋山からも絶大な信頼を受けていた。
不動のリードオフマンに定着すべく、今季からは背番号を「7」に変更。現二軍監督・松井稼頭央のような、スイッチヒッターで華のある1番打者として、さらなる飛躍に期待がかかっていた。
しかし、新型コロナウイルスの影響によって調整が難しかったこともあってか、開幕直前の練習試合で思うような結果を残すことができず。開幕戦は「9番・中堅」での出場に。開幕後もなかなか状態が上がらず、13試合の出場で打率は.179。守備でもらしくないプレーが目立つようになり、「首の痛み」という理由で7月5日に登録を抹消になってしまう。
実戦復帰を果たすのは、抹消から約3週間後の7月28日のこと。3打席連続三振というほろ苦い復帰戦となったが、復帰2戦目となった30日の試合では、初回の第1打席で左腕の加藤貴之からレフトへの安打を放つと、つづく第2打席では右腕の石川直也からライト前に弾き返す安打。一軍での実績も豊富な2人から、左右両打席で快音を響かせて見せた。
さらに、2本目の安打の直後にはすかさず盗塁にも成功。本人も「気持ちが楽になりました」と口にしたように、復帰してすぐに“金子らしさ”が見られたのは何よりの朗報だった。
「1日でも早く一軍に…」
チームの打撃成績が前年から悪化していることは上でも触れたが、もうひとつ苦しい成績となっている部分に“機動力”が挙げられる。
ド派手なバッティングにどうしても目が行きがちだが、昨季はチーム盗塁数も134でリーグトップ。足も絡めた総合的な攻撃力で相手を圧倒してきたのだ。
それが、今季ここまでのチーム盗塁数は21。これはソフトバンク、日本ハムと並んでリーグ最少。ここにも金子不在の影響は表れている。
本人は30日の試合後、「久しぶりのヒットが出て安心しました」と語ったものの、盗塁については「まだ自分自身納得ができる走塁ではないですね。いい走りができるようにやっていきます」とコメント。まだ手ごたえを感じられるようなプレーではなかった模様。
それでも、その後は31日の巨人戦こそ5打数無安打に終わるも、月が変わって8月1日の同じく巨人戦では4打数1安打。翌2日の試合では3打数2安打と、出場2試合連続で安打を記録中。確実に状態は上向いている。
自身が不在の間、一軍のチームでは鈴木将平という高卒4年目の若獅子が希望の光をもたらしていたものの、このところは相手のマークが厳しくなったこともあって苦戦中。波の大きさから下位に打順を下げていたコーリー・スパンジェンバーグを戻してみるなど、“1番”のポジションにピタリとハマった選手はまだいない。
チームにとっては危機的な状況だが、早期復帰を目指して『CAR3219フィールド』で汗を流している背番号7にとっては大きなチャンス。今こそ秋山に代わって“勝利を呼び込む風”となることが求められる。
「1日でも早く一軍に上がることができるようにやっていきます」
金子侑司が完全な状態で一軍に戻り、「1番・中堅」のポジションが埋まった時、逆襲のレオがパ・リーグを再びかき回す。
文=尾崎直也
(コメント提供=埼玉西武ライオンズ)