鮮烈な対外試合デビューも…
荻野貴司、マーティン、清田育宏、角中勝也、福田秀平、加藤翔平、岡大海、菅野剛士、さらには若手の藤原恭大、当時育成選手だった和田康士朗といった熾烈なロッテの外野のレギュラー争いの中で、ルーキーの高部瑛斗がどこまでこの競争に食い込めるのか、開幕前の見所のひとつだった。
春季キャンプは一軍スタートを切り、今季初の対外試合となった2月8日に行われた楽天モンキーズとの国際交流試合に、『2番・ライト』で先発出場した高部は初回の第1打席、レフト前ヒットで出塁すると、続く3番・香月一也の初球に盗塁成功。香月の浅いライト前ヒットで二塁から一気に生還した。続く第2打席では右中間を破る走者一層の適時三塁打。50m走のタイムは5秒8の俊足・高部が、三塁に陥れるまでのスピードの速さは圧巻だった。
鮮烈な対外試合デビューとなったが、「打った瞬間にボキっとなった」と、同試合中に右手有鈎骨を骨折し離脱。同じ大卒ルーキーの同2位・佐藤都志也、同5位・福田光輝が一軍の練習試合、オープン戦に出場するなか、高部は復帰へ向けてリハビリに励んだ。3月15日の日本ハムとの二軍練習試合で、実戦復帰を果たす。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で開幕が6月19日に変更となり、6月の練習試合では一軍の練習試合にも出場した。骨折で離脱した楽天モンキーズ戦以来となる一軍の対外試合出場となった6月5日の楽天との練習試合で、『2番・ライト』で出場し、3回に則本昂大から安打。
翌6日には代走から途中出場し、和田恋の左中間への当たりをセンター・高部がダイビングキャッチする好捕し、打っても片手一本でヒットを放った。7日の楽天との練習試合では、代走で出場し盗塁を決めた。
10日の中日との練習試合で、「あれはサインです。確実にランナーを送って、自分も勝負できるのであれば勝負しようと思いました。サードも前にきていたので、打球を殺してピッチャーに取らせるぐらいにと思っていました」と三塁へ絶妙なセーフティバント。
開幕はファームスタートとなったが、一軍の練習試合で持ち味をアピールした。
二軍で安打量産
ファームでは開幕してから初安打を放つまでに12打席かかり、この時期の映像を見ると、左投手の外角のスライダーを見極められず空振りすることが多い印象を受けた。7月16日のDeNAとの二軍戦でサヨナラ本塁打を放つと、同月22日の西武との二軍戦では左に右にセンターにと、1試合5安打をマーク。この試合を境に安打を量産し、7月(.364)と8月(.308)の月間打率は3割を超えた。
9月に入ると、その勢いは加速する。9月8日の楽天戦から6試合連続でマルチ安打を放つなど、二軍戦では17試合に出場してリーグトップの打率.431、28安打を放つ大暴れ。9月度のイースタン・リーグ「スカパー!ファーム月間MVP」に輝いた。
9月25日のソフトバンクとの試合前には、一軍の練習に参加。この日の公示で一軍登録はなかったが、井口資仁監督は「彼の動きを見たかった。好調をキープしていますので、いつ呼ばれてもいいように準備してくれと伝えました」と話していた。
一軍の壁
マーティン、荻野、清田、角中、福田秀、和田と外野手の層が厚く、なかなか一軍昇格の機会がなかった中で、新型コロナウイルス感染拡大に伴う「特例2020」で一軍登録抹消された選手たちの“代替指名選手”として10月6日にプロ初昇格を果たした。
「スタメンはアップの時に知りました。思ったよりは緊張はしませんでしたが守備に就いた時に緊張感を覚えました」。
同日のオリックス戦に『1番・レフト』で先発出場した高部は、球界を代表する山本由伸に対し、初回の第1打席は152キロのストレートを前に見逃し三振、第2打席が遊ゴロ、第3打席が見逃し三振。9回の第4打席は守護神・ディクソンのチェンジアップに空振り三振で、4打数0安打3三振だった。
翌7日から同じく“代替指名選手”として昇格した藤原恭大がスタメン出場し、高部はベンチスタート。代打で出場した9日のソフトバンク戦で、高橋礼からレフト前に弾き返す安打で嬉しいプロ初安打を放った。ただ、プロ1年目に一軍で放った安打はこの1本のみで、16日に一軍登録を抹消された。
内野安打
再びファームに戻ってからは、一時イースタン・リーグ打率トップに躍り出るなど、安打を積み重ねた。リーグトップの打率.351で最終戦を迎えたが、4打数0安打で打率.344でフィニッシュ。チームメイトの加藤翔平が最終戦、3打数1安打で打率.345となり、高部は惜しくも首位打者を逃した。
ファームに落ちてからの打撃を見ると、しっかりと振りきった安打だけでなく、大学時代も得意にしていたセーフティバントを3本も決めるなど、自身が持ち味とする俊足を活かしたプレーも見せた。
ルーキーイヤーの今季は、10月に一軍昇格したときにチャンスをモノにすることはできなかったが、ファームではきっちりと結果を残した。今年の経験、反省を来季に活かし、外野のレギュラー争いを盛り上げて欲しいところだ。
文=岩下雄太