OP戦、練習試合で結果を残すも
「個人的にも結果を残して、そのなかでチームが勝てればより良いんじゃないかなと思います」。
春季キャンプで今季に向けて、このように意気込んでいたロッテの藤岡裕大。
昨季はキャンプ初日に球団から『右足膝窩筋腱炎』と発表されると、開幕には間に合ったものの、19年5月21日のオリックス戦で右足を負傷し『右大腿二頭筋肉離れ』と診断され離脱。6月14日に一軍復帰したが、7月20日に『右大腿二頭筋損傷(Ⅱ度)』で一軍登録を抹消されるなど故障に泣いた。昨季終了後には「去年(2018年)1年間経験をさせてもらって、歯がゆい気持ち。シーズン通して悔しかったですね」と話すなど不本意な1年になった。
それだけに、「今年は全試合怪我なく、しっかり戦い抜くことを一番意識してやりたいと思っています」と強い決意を持って挑んだ。
「今年も強く振ることがテーマですね。自分のタイミングが合えば、強く振れると思います」。2・3月に行われた練習試合、オープン戦で23試合に出場して、打率.327(55-18)、6打点をマーク。新型コロナウイルス感染拡大の影響で開幕が6月19日に変更となったが、6月2日からの練習試合では2試合連続本塁打を放つなど、打率.294(34-10)、2本塁打、8打点の成績を残し開幕を迎えた。
粘り強い打撃に勝負強い打撃
開幕してからは7月終了時点で打率.208と低迷していたが、粘り強い打撃、勝負強い打撃を披露した。
今季チーム初勝利を挙げた6月20日のソフトバンク戦、1-1の8回、2番手・松本裕樹に簡単に2ストライクと追い込まれるも、ここから4球連続でボールを選び四球で出塁し、レアードの打席中にワイルドピッチで、勝ち越しのホームを踏んだ。
6月27日のオリックス戦では、先頭打者で迎えた1-1の延長10回の打席、2球で追い込まれるもそこから粘りに粘って、澤田圭佑が投じた14球目の高めのストレートを冷静に見送り四球を選び、佐藤都志也のサヨナラ適時打をお膳立て。
7月2日の楽天戦では2-2の3回無死走者なしの第1打席、簡単に2ストライクと追い込まれるも、4球見逃し四球で出塁し、清田のタイムリーで生還。6-3の6回無死走者なしの第3打席、ライト前にヒットを放ち、角中の犠飛でホームインするなど、9番打者ではあったが、イニングの先頭打者として、1番打者のような役割を果たすこともあった。
勝負強い打撃でいえば、6月26日のオリックス戦で、2-5の8回に2点を返し、なお一二塁の好機で前進守備の外野の頭を越す左中間へ、逆転の2点適時二塁打。6月28日のオリックス戦でも、3-3の4回二死一二塁の場面で、山本由伸から一時勝ち越しとなる適時打を放った。
8月2日の楽天戦ではベンチスタートとなったが、「いつ言われてもいいように、5回以降はしっかり体を動かしてストレッチをして準備ができていた」と、4-5の7回に代打で出場。第1打席は中飛に倒れたが、角中勝也の適時打で同点に追いつき、なお一死満塁と好機で巡ってきたこの日の第2打席、「死球でもいいので、どういう形でも本当に1点が取れれば…」。楽天の宋家豪が投じた初球の外角チェンジアップを逆らわずに打ち返すと、レフトへのフライとなり、三塁走者の菅野がタッチアップ。菅野がホームに生還し、勝ち越しの犠飛となった。
8月も月間打率.235(68-16)だったが、7日のオリックス戦では1安打3四球と5打席で29球投げさせれば、21日のソフトバンク戦では前日2打席目で代打を送られた悔しさを晴らすように2安打、2四球と5打席中4打席出塁した日もあった。
9月以降も打率は上がってこなかったが、CS進出を決めた11月8日の西武戦で決勝のソロを放つなど、数字には見えない勝負強さを発揮した。
チームトップの犠打数
藤岡はチームトップの16犠打を成功させたが、そのうち10回が初球(9回)、もしくはファーストストライク(1回)で犠打を決めている。
7月28日の楽天戦、12-12の9回無死一、二塁の場面、初球でバントを決め、中村奨吾のサヨナラ押し出し死球に繋げれば、1試合3犠打を決めた9月6日のソフトバンク戦では、0-0の5回無死一塁の第2打席、きっちりと初球で送り、そこからチームは4点を奪い勝利した。
さらに9月30日の日本ハム戦、1-0の7回一死三塁の場面では1ボールから2球目をヒッティングに出てファウルとなるも、続く3球目にセーフティスクイズを決めるということもあった。三塁走者・和田康士朗の好スタートが試合後に注目されていたが、1球目できっちりとスクイズを決めた藤岡をもっと評価されても良かっただろう。
犠打を1球目から決める裏側には、試合前の入念な準備がある。試合前のバント練習を見ているとバントマシンを相手に黙々と、三塁側に転がしていることが多い。現在は考え方が変わっているかもしれないが、1年目当時の藤岡は「まずは打球を殺してという意識です」という心構えを持って取り組んでいた。
走塁、守備も
昨季は少なかったアグレッシブな走塁も今季は何度も見せた。
7月12日の西武戦の2回一死走者なしからレフトフェンス直撃のヒットで、レフト・スパンジェンバーグのクッションボールを捕ってからの送球も早かったが、俊足を飛ばして二塁へ進塁する好走塁。同日の6回には、左中間へのヒットでセンターの捕球位置がややレフトよりだったのを見て、一気に二塁を陥れた。8月7日のオリックス戦では、レフトへ飛球を放つと、レフト・ジョーンズのクッションの処理にもたついているのを見て三塁へ進み三塁打にした。
こういった1本の安打で先の塁を陥れることが多い理由について、藤岡は新人時代に「相手の守備位置、スタートの良さ、捕るまでの速さ、右投げなのか左投げなのか、そういうのを走っている中で判断ができますし、試合が始まる前から判断できる部分。自分がいけると思ったら積極的に。いけると思った打球はアウトにならないと思うので、思い切って次の塁を狙えていると思うので良いと思います」と説明してくれている。
9月9日の日本ハム戦では、2-0の5回一死二塁から和田が放ったやや浅いライトライナー(ライト・大田がスライディングキャッチ)も二塁からタッチアップで三塁へ進めば、CS争いへ負けが許されない11月5日のソフトバンク戦では、0-1の5回二死一、二塁から9番・安田が左中間を破る安打で、ソフトバンクの外野陣が打球処理にもたつく間に二塁走者の井上に続き、一塁走者の藤岡もヘッドスライディングで逆転のホームを踏んだ。
守備面でも昨季までは抜けていたような打球を処理し、しっかりとアウトにする場面が増えた。9月が終了した時点で85試合の出場で、失策数はわずかに3つ。10月以降に3失策し、シーズン6失策だったが、3年間で最も少ない数字。ちなみに出場イニング数、守備機会に違いはあるが、守備率.986は、ゴールデン・グラブ賞を受賞した源田壮亮(西武)の.983よりも上回る数字だった。
物足りない数字も…
打率.229、4本塁打、33打点、8盗塁、出塁率.309、OPS.624。
数字だけ見ると物足りないが、粘り強い打撃、時折見せる勝負強さ、さらには初球で決める犠打、先を狙う積極的な走塁と、瞬間的に活躍する選手に比べれば、シーズン通しての攻守走の安定度は上をいく。だからこそ、3年間ショートのレギュラーとして出場してきたのだろう。ただ、1年間出場し続けるには、打率アップは必要不可欠。3年間出場して通算打率が.237はかなり寂しい。
来季は大学ナンバー1ショートと呼ばれる小川龍成が入ってくる。さらには福田光輝、平沢大河、西巻賢二、三木亮といったライバルもいる。マリーンズファンとしても、レベルの高い争いを期待していることだろう。藤岡に話しを戻せば、競争に勝ち抜きレギュラーで出場し続けるには、一にも二にも打撃。打撃力をあげることで、藤岡の評価が今以上に上がるはずだ。
文=岩下雄太