2020年に開幕前に支配下選手となったロッテ・和田康士朗

◆ スペシャリストが2人

 マリーンズのここ数年の戦いを振り返ると、試合終盤に“代走のスペシャリスト”が控えている。

 2019年は岡大海、そして昨季は和田康士朗と岡の2人。“切り札”が2枚いた昨季は代走の盗塁数がリーグトップの21個。そのうちわけは、和田が15盗塁、岡が5盗塁、茶谷が1盗塁だった。半分以上は和田が稼いでいるが、岡も代走の盗塁ランキングでは和田の15盗塁、佐野の10盗塁に次いで3番目に多い5盗塁をマークした。

 昨季は“切り札”が2枚いることは非常に大きかった。昨年6月23日のオリックス戦がそのひとつだろう。4-5の9回、オリックスのマウンドには19年に11試合に登板して、防御率0.00と完璧に抑え込まれたディクソン。先頭のマーティンがセンター前にヒットを放ち出塁すると、すかさず井口監督は、代走に岡大海を送る。その岡は続く中村奨吾の初球、ディクソンの投球モーションを完全に盗み二塁盗塁成功。中村はインコースのナックルカーブをセカンドへ打ち、二塁走者の岡は三塁へ進んだ。

 ここで7番・井上晴哉が三塁線を破るレフト前ヒットで、三塁走者の岡がヘッドスライディングで同点のホームを踏んだ。井口監督は、またも動く。井上に代えて、和田を代走に送った。ディクソンは俊足のランナーに動揺したのか、田村の初球、外角に投じたストレートがワイルドピッチとなり、一塁走者の和田は一気に三塁を陥れた。田村龍弘が四球、藤岡裕大が申告敬遠で満塁となると、1番・荻野貴司の押し出し死球でサヨナラ勝ち。

 “足”で揺さぶり、ディクソンを攻略。足が速くて、かつ盗塁技術の高い2人を控えているマリーンズは、間違いなく他球団にとって脅威を与えただろう。

▼ 昨季パ・リーグの代走盗塁成績
1位 21盗塁 ロッテ
(和田:15、岡:5、茶谷:1)
2位 16盗塁 オリックス
3位 10盗塁 ソフトバンク
4位  5盗塁 西武
4位  5盗塁 楽天
6位  4盗塁 日本ハム
※盗塁数は代走で決めたもののみ

◆ 盗塁だけじゃない!

 盗塁だけでなく、走塁面でも先を狙う走塁で相手にプレッシャーを与え、得点に繋げた。7月7日の西武戦では、6-5の7回一死二、三塁で二塁走者の代走・岡が、レアードの浅いレフト前へのヒットで一気にホームイン。

 和田も9月30日の日本ハム戦、1-0の7回無死二塁で菅野剛士の代走で登場すると、一死三塁から藤岡のキャッチャー前のスクイズで、完璧なスタートを切り、捕手・清水がボールを握ったときにはホームインする快速を披露した。

 代走での盗塁は0だったが、ベテラン・鳥谷敬の好走塁も光った。8月20日のソフトバンク戦、4-4の10回二死一、二塁の場面、佐藤都志也の打席中に椎野の暴投で、バックネット裏にボールが転々としている間に、フルカウントでスタートを切っていた鳥谷が三塁ベースを回ってホームへ。タイミングは微妙だったが、甲斐からホームベースカバーに入った椎野への送球が若干逸れ、タッチをかいくぐるようにヘッドスライディングしてサヨナラのホームを踏んだということもあった。

 過去の取材ではあるが、和田と岡は代走での心構えについて和田は「代走の役割として相手の守備陣にプレッシャーを与えないといけない。ひとつでも先の塁を盗むことが代走の役割だと思います」と語れば、岡は「自分で塁にいって走っているわけではなく、いきなり塁上に立っていくので、リズムがないというのがある。しっかりスタートを切るイメージを想定して、塁上に立つようにしています」と話している。

 2021年に向けて新しい戦いが始まる。岡、和田が守る外野手は“走れる”選手が多く、今季も一軍でプレーするためにはアピールが必須だ。今年はどの選手がレギュラーを掴み、どの選手が試合終盤の“代走の切り札”として勝利に貢献するのか。昨季と同じように試合終盤の代走の切り札を2枚置くのか。戦術面も含めて、今季も非常に楽しみだ。

文=岩下雄太

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