ファンを愛し、ファンに愛された男の花道
昨年末にベイスターズを退団した石川雄洋氏の引退セレモニーが5日、ロッテ戦の試合後に横浜スタジアムで行われた。
スーツに身を包み、長髪姿でグラウンドに現れた石川氏。ビジョンには石川氏の活躍と、両親、横浜高校の渡辺元智元監督、同級生・涌井秀章投手(楽天)、ベイスターズ時代のライバル・藤田一也選手(楽天)、かつての盟友・村田修一(巨人コーチ)、森本稀哲氏、DeNAの初代監督でもある中畑清氏、後輩の筒香嘉智(ドジャース)、後藤武敏(楽天コーチ)、尊敬する坂口智隆選手(ヤクルト)、三浦大輔監督ら、縁のある人物からのメッセージVTRが流れた。
その後、本人がマイクを持ち「横浜高校で3年、ベイスターズで16年、合計19年間、この横浜で野球をして、人間としてすごく成長させてもらった。この街が本当に大好きです。大好きな横浜スタジアム、素晴らしい仲間、ファンの方々とともに戦えた16年、とても誇りに思います」と挨拶。
さらに、「辛く、悔しい思いのほうが強く、壁にぶつかったり、心が折れそうになったことがあっても、ファンのおかげでなんとか16年やってこられました」と続け、「入団してからキャプテンもやって、なかなか勝てずに、選手もつらい思いをしましたが、それ以上にファンの方々に申し訳なく思っています。ここ横浜で優勝したかった」との思いも吐露。それでも「今のメンバーが叶えてくれると信じています。陰ながら応援します」と、後輩たちに夢を託した。
明日からはアメフト界へと異例の転身を遂げることになるが、「第2の人生のスタートをきることになりました。三浦さんから『石川らしく』との言葉を頂いたので、言葉通り、競技は違いますけど楽しく生きていきたいと思います。少しでもいいんで興味を持って応援してください」と、新天地のアピールも忘れなかった。
そして最後に、「心のなかにファンの皆様の声援は、いつまでも残ると思います。プロ16年間、石川雄洋に温かい声援を送っていただき、本当にありがとうございました」と、ファン思いで知られる石川氏らしい言葉で締めくくった。
その後、佐野恵太キャプテンから花束が贈呈され、「ラストスイング」との企画で佐野が投げたボールを“らしく“レフト前に運び、記念のボールをメッセージVTRに出演した人々のサインボールとともにケースに収めると、場内を一周してファンの声援を再び一身に浴び、思い出いっぱいの横浜スタジアムを後にした。
イベント後、取材に応じた石川氏はVTRについて「大体の人は想像できたけど、両親にいってるとは思わなかった。泣きそうになったけれど、こらえました」と明かすと、「あすからアメフトに練習に正式に参加するので、区切りとしてファンの方に気持ちを伝えられた。アメフトに向けて切り替えができた」とスッキリした表情。異例の異分野への挑戦には「プロで16年やれたことは、誰もができる経験ではない。活かすも殺すも自分次第。Xリーグ発展に、少しでも貢献できれば」と、すでに心は未来を向いていた。
高校からトータル19年間「YOKOHAMA」のユニフォームに袖を通し続けた、ベイスターズファンの記憶に生き続ける石川雄洋氏。骨折しても試合に出続け、昇格直後に連敗を止めるホームランを放つなど、記憶に残る過ぎる男の第2章も、きっとファンを惹きつけてやまないプレーを見せてくれるに違いない。
取材・文=萩原孝弘(はぎわら・たかひろ)