DeNA戦の7回、2ランを放ちナインに迎えられる巨人・中田=東京ドーム

◆ 白球つれづれ2021~第34回・中田翔の後先

 日本ハムから巨人に移籍した中田翔選手が22日のDeNA戦で早くも1号本塁打を放った。敗色濃厚の7回に起死回生の2ラン。続くゼラス・ウィーラー選手にも一発が飛び出して同点、引き分けに持ち込んだ。首位・阪神を追撃する巨人にとっては「中田様々」のゲームだっただろう。

 だが、この活躍を手放しで喜んでいるファンばかりではないはずだ。個人的にも釈然とした気持ちになれない。移籍に至るプロセスに問題があるからだ。

 今月20日、両球団から中田の無償トレードが発表された。

 チームメイトの投手に暴行を働いたのは4日のこと。事態を重く見た日本ハム球団は11日になって、統一契約書違反として同選手の一、二軍全試合出場停止処分を発表する。それから、わずか9日間で処分は解除されて巨人入り。さらに1日後には出場選手登録を済ませてベンチ入りが可能となった。

 トレードが大きく進展したのは16日のことと言われている。「正直、このチームで(復帰)は難しいと思っている」と放出を示唆した栗山英樹監督は、その日のうちに巨人の原辰徳監督に電話して、中田再生の道を相談。これに応えてチームの全権を握る原監督が電撃トレードを受け入れた。本来であればトレードの期限は7月末までとされているが、コロナ禍の今季は8月末までと特例変更されていた。季節外れの移籍劇はそんな事情も手伝って実現した。

 さて、ここでもう一度、思い出してもらいたいのは「無期限の出場停止」という処分である。特に「無期限」と言う文言が曲者だ。一般論でいえば、かなり長期間をイメージする。だが、事情が変われば短期間でもオーケーとなる。

 栗山監督は事件発覚後、「次のステップを踏むためには、ちゃんとみんなに謝り、言われることも受け止め、我慢して前へ進むしかない」と語っている。ところが、中田が公式の場で謝罪したのは巨人に移籍した場でしかない。ナインはもとより、地元・北海道のファンへの謝罪すら置き去りにされている。そもそも、「無期限出場停止」を決めた球団が、わずか1週間余りで、その禁を解いて動くことこそ常識を疑う。

 一方の巨人にとっても中田の獲得はリスクをはらんでいる。

◆ 疑問の声とそれぞれの事情

 移籍決定直後にスポーツニッポンが緊急アンケートを行い、読者の反応を伝えている。その結果、「移籍に賛成」が31.8%で、「反対」が31.3%。「どちらとも言えない」が36.9%に上っている。少なくとももろ手を挙げて賛成は少数に留まっている。懐疑派の多くは「暴力行為を働いた問題児をこの時期にとる必要があるのか?」というものだろうが、「無期限出場停止の選手に手を伸ばしていいのか?」と言う疑問もあったはずだ。

 巨人軍の生みの親である故正力松太郎氏の「紳士たれ」の遺訓を今さら持ち出す気はないが、中田の処分理由となった統一契約書第17条(模範行為)には「日本国民の模範たるべく努力する」の一文もある。巨人に移ったからすべて不問ではなく、せめて1カ月程度の自粛期間を設けてから出場を許可すべきではなかったか。それこそがルールではなく、「けじめ」のつけ方と言うものだろう。

 両球団にとって、中田の去就を巡ってそれぞれの思惑も見え隠れする。

 日本ハムにとって、もはや“お荷物”の存在となってしまった中田を救う手立てが見当たらない。23年に開場する新球場に向けて若返り策も進めたい。

 巨人は、「5番・一塁」に期待した新外国人のジャスティン・スモーク選手が途中退団、エリック・テームズ選手もデビュー戦の4月にアキレス腱断裂、この23日に自由契約が発表された。打線の一層の強化を図りたいチームにとって元侍ジャパンの4番で、昨年のパ・リーグ打点王である中田は、緊急補強にうってつけの存在だ。

 巨人の歴史を振り返ると、他球団の大物選手獲得は年中行事である。古くは別所毅彦、金田正一から落合博満、清原和博ら各氏、現役では丸佳浩や山口俊選手ら数知れない。華々しい活躍で貢献した選手もいるが、多くは志半ばで名門球団を去っている。アンチのファンからすれば「そこまでして勝ちたいか?」と皮肉の一つも言いたいところだろうが、それでも勝利を掴み取りにいくのがジャイアンツという球団だ。

「野球をやらせていいんですかという意見は世にあると思う」。

「巨人もすごく覚悟がいる事。申し訳ないし、感謝しかない」。

 今回の中田移籍に関して栗山監督が語る。“情の人”らしいコメントだが、その分、感情が優先されて、けじめのつけ方を拙速にしてしまった気がしてならない。恩師の苦悩はわかっているはず。今度は中田がプレーだけでなく公私にわたってその答えを出す番である。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

【荒川和夫・プロフィール】
1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中。

この記事を書いたのは

荒川和夫

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