9月に入り先発陣が安定
「2.86」
この数字は9月のチーム先発防御率だ。8月終了時点のチーム先発防御率は「4.40」と打線がリーグトップの得点数を誇り、リリーフ陣が5月以降安定していたなかで、先発陣が課題のひとつになっていた。
前半戦の先発陣を振り返ると、美馬学が交流戦で2試合連続2桁失点を喫し、石川歩も右肘関節クリーニング手術で離脱と“エース格”の2人が一軍を不在にする時間が長かったことに加え、昨季以上の活躍が期待された二木康太、小島和哉がもうひとつの出来だった。不安定な先発陣のなかで、岩下大輝がチームトップの8勝をマークしたというのが、前半戦の先発陣だった。
東京五輪による中断期間明けの後半戦も、先発陣が早いイニングで失点し、打線が中盤から後半にかけて逆転し、そのリードを救援陣が守りきり勝利することが多かった。8月もチーム先発防御率は「4.33」と、“勝負の9月”を前にその不安は解消されなかった。
9月以降も先発の失点をある程度覚悟しながら、リーグトップの攻撃力を誇る打線がそれをカバーし、救援陣で逃げ切る戦いが続いていくとなると、打線が打てなくなった時、中断期間があったとはいえリリーフ陣の登板過多による疲労で失速する恐れがあった。
9月最初の1日の西武戦では岩下が2回を投げ6失点、3日の日本ハム戦は7-5で勝利したが、小島が4回1/3を投げ5失点、翌4日の日本ハム戦も鈴木昭汰が4回3失点でマウンドを降りた。
5日の日本ハム戦でロメロが7回1失点に抑えゲームを作ると、この試合を境に先発陣が安定。5日の日本ハム戦から20日の日本ハム戦にかけて13試合戦ったが、5回を投げきれなかった先発は15日のソフトバンク戦で3回1/3で降板した美馬だけ。そのほかの12試合は先発投手が5イニング以上投げ、6イニング以上投げた試合は10試合もあった。
加藤が先発マスクを被ると…
9月に入り、先発投手が安定してきた要因のひとつに加藤匠馬の存在が挙げられる。加藤は6月15日に加藤翔平とのトレードで中日から加入し、前半戦は1度もスタメンマスクを被ることがなかったが、後半戦に入りスタメンマスクを被る機会を増やした。
9月は16試合中13試合でスタメンマスクを被り、加藤がスタメン出場した試合、チームは9勝2敗2分と大きく勝ち越し、先発マスクを被ったときの9月のチーム先発防御率は「2.23」だ。岩下が先発した1日の西武戦は2回で6点を失ったが、5日の日本ハム戦以降、加藤が先発マスクを被った試合は先発投手が全員5イニング以上投げている。
11日の楽天戦でプロ初完投勝利、19日の日本ハム戦ではプロ初完封勝利を挙げた小島には、序盤からストライク先行の投球で、少ない球数で打者を封じていく好リード。
前カードの日本ハムとの3連戦では岩下、小島、石川が先発したが、3人で21イニングを投げ許した失点はわずかに1点だった。
先発陣も間隔をあけて登板
昨年先発ローテーションの軸で投げていた石川、美馬、二木、小島が調子を取り戻し、前半戦8勝を挙げた岩下、さらにロメロ、佐々木朗希、河村説人と頭数が増えたことも大きい。
佐々木朗希は基本的に先発した翌日に一軍登録抹消しているが、先発の頭数が増えたことで佐々木だけでなく、ロメロ(9月15日)、二木(8月28日)、故障明けの石川(9月10日)、岩下(9月19日)など先発した翌日に一軍登録を抹消し、間隔をあけて登板させることができるようになった。※()は一軍登録抹消した日
一軍登録を抹消していないが、2試合連続で1人で投げ抜いた小島も11日の楽天戦から中7日あけて19日の日本ハム戦に先発し、二木も前回16日のソフトバンク戦は中7日、美馬も前回15日のソフトバンク戦は中7日での先発だった。優勝を狙うために登板間隔を詰めるのではなく、間隔をあけて万全の状態で投げさせることができている。
また来週の28日(火)から2週連続で6連戦、10月12日のオリックス戦から19日のソフトバンク戦にかけて8連戦が控えている。そこに向けて、少しでも良い状態で先発陣を投げさせるための準備が、着々と進んでいるように見える。
8月までは打線が先発陣の不安定さをカバーしていたが、ここ最近はなかなか得点ができないなかで、20日の日本ハム戦1-0で勝利したように、先発陣が試合を作りリリーフ陣で逃げ切る試合が増えた。投手が打たれれば打線が打ち、打線が打てなければ投手陣が支える、チームの流れが非常に良いマリーンズ。油断は禁物だが、歓喜の瞬間が近づいてきているのは事実だ。
文=岩下雄太