プロ6年目で初めて規定投球回をクリアした中日・小笠原慎之介 (C) Kyodo News

◆ プロ6年目でついに…

 倒れた分だけ、起き上がった。

 初の規定投球回達成へ、残り「5回と3分の2」としていた先発・小笠原慎之介。今季最終戦となる10月26日の阪神戦(甲子園)で、マウンドに上がった。

 「やっとここまで来たんですから頑張ります」

 入団6年目。肩と肘の痛みと付き合ってきた。

 目標に手がかかりかけたところで、左肘はパンク寸前…。回復を待って、治療をして、トレーナーのGOサインを得た。

 10月10日以来、時間を空けた登板で、6回を無失点の好投。

 「相手ベンチのやる気はすごかったです。ボクは冷静でした。力を入れなくてもボールがいくんだ、と感じた日でした。今季一番の投球だったと思います」

 優勝へ負けられない虎打線。相手ベンチから発せられる圧を受け止め、「本塁さえ踏まれなければいい」と消化した。

 結果はチームも勝利。阪神が負け、横浜スタジアムではヤクルトがに勝利。高津ヤクルトが優勝を決めた。

◆ 「今年で野球をやめなきゃいけなくなるかも…」

 涙の分だけ、強くなった。

 数年前は登板後に本拠地のトイレで泣いていた。今でも変わらず、年明けの沖縄自主トレでも泣いている。

 大野雄大に参加を申し出ながら、いったんは断られた。

 コロナ禍のため、少人数で実施したいエースの説明も、頑として受け入れない。「どうしても」と熱意で押し切った。

 その沖縄で涙した。

 「今年で野球をやめなきゃいけなくなるかもしれません」

 一昨季は登板7試合で、昨季も4試合。

 2016年にドラ1入団も、結果が出ずに見通しの立たない将来。もどかしさから感情のバランスが崩れて、泣いた。

 先輩投手からは「自分を追い込むな」と言われた。

 しんみりした空気の中、田島から「泣くなよ」と頰をペチッとたたかれて場が和んだ。

 阪神戦で目標達成。壁を突き破った左腕は涙を流さ……なかった。

 「投げさせてくれた首脳陣、投げられる状態にしてくださったトレーナーの方、周りの先輩や同僚に感謝です」と周囲への感謝を口にする。

◆ 「休んでる暇もない」

 苦境を乗り越えた2021年の戦いを経て、来季はどのようなシーズンにするのか。

 「今年のイニング(143回1/3)が、来季残す最低限の数字になると思う。『シーズン疲れたー』というのはありますけれど、終わったことです。休んでる暇もないですから」

 フォームの改善点は、あれもこれも…。

 「右手の壁と、体重移動と、左の股関節に体重をしっかり乗せることと、右足が着いてからの間と、力んで腕が遠回りするのもなくしたいです。ボクは欲の塊ですから」

 ローテーション投手として、初めてのオフが始まった。

 東海大相模高では2015年に夏の甲子園で優勝投手になり、ドラフト1位で入団した。先発投手として“一本立ち”したと言える規定投球回の到達。

 ローテーション投手・小笠原がプライドを取り戻した。

文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)

もっと読む