FA選手の引き留めにトレード、積極的だったフロント
6年ぶりにセ・リーグ制覇を果たし、日本シリーズではオリックスと連日に渡る熱戦を繰り広げたヤクルト。昨季までは2シーズン連続最下位で評論家の下馬評は低かったものの、フタを開けると若い力や新戦力がマッチし、一気に20年ぶりとなる日本一にまで駆け上がった。
シーズン開幕前は課題が山積みだった。投手陣は近年、先発ローテーション投手を固められず、先発防御率は2019年が5.05、2020年も4.83と壊滅状態。ストロングポイントだったはずの攻撃陣も2020年のチーム打率はリーグ最下位。評論家の多くがBクラス予想するのも致し方なかった。
2021年に向け、まずはフロントが奮起したと言っていいだろう。国内FA権を取得した小川泰弘と山田哲人の引き留めに成功。さらに、投手コーチとして尾花高夫氏と伊藤智仁氏、チームOBでもある指導経験豊富な両氏を招聘した。
新外国人はローテ候補のサイスニード、長打力が売りのドミンゴ・サンタナとホセ・オスナを獲得。コロナによる来日遅れを見越し、ソフトバンクを退団した内川聖一も確保した。3月には廣岡大志との交換トレードで巨人から田口麗斗を獲得。積極的な補強でストーブリーグの主役となった。
序盤戦を支えた近藤弘樹&2番・中村悠平
本拠地・神宮での開幕カードこそ阪神に3連敗を喫したものの、4月に5連勝するなどすぐに貯金生活へ。4月中旬以降は一度も勝率5割を下回ることなく右肩上がりで貯金を増やし続けた。
開幕当初、投手陣で光っていたのは新加入の近藤弘樹だった。楽天をわずか3年で戦力外となった元ドラ1右腕は新天地で覚醒。利便性の高いリリーバーとして開幕から16試合連続無失点を記録するなどフル稼働した。5月下旬に上半身のコンディション不良で登録抹消になって以降、一軍での登板はなかったが、22試合で0勝1敗11ホールド、防御率0.96の好成績をマーク。好スタートを切ったチームを支えた。
打線では4月からの2ヵ月間、主に「2番・捕手」でスタメン起用された中村悠平が機能。高い出塁率と器用な打撃で打線の潤滑油となり、後半戦は6番打者として勝負強い打撃も光った。助っ人野手が合流した4月中旬以降は、村上宗隆のあとを打つ“5番打者問題”が解決。オスナは5月の月間打率.313を記録するなど早くから日本野球に順応。シーズン終盤は調子を落としてきたオスナに代わりサンタナが5番を務め、日本シリーズでは貴重な2本塁打を放った。
また、シーズンを通して塩見泰隆を「1番・中堅」に固定できたことも大きかった。9月18日の巨人戦(東京ドーム)では史上71人目となるサイクル安打を達成。5月16日の中日戦(バンテリンD)では矢のような本塁送球でサヨナラ生還を狙った三塁走者をタッチアウトに仕留めるなど、攻守両面でチームに欠かせない存在となった。
後半戦に入ると高卒2年目・奥川恭伸が覚醒。登板間隔を広めにとりながら18試合に登板し、9勝4敗、防御率3.26の好成績をマーク。巨人とのCSファイナルステージ第1戦(神宮)ではプロ初完封勝利を挙げ、オリックス・山本由伸と投げった日本シリーズ第1戦(京セラD大阪)でも7回1失点の快投を披露した。日本シリーズ第2戦(京セラD大阪)では高橋奎二がプロ初完封勝利をマーク。シーズン終盤からポストシーズンにかけ、若手投手が刺激し合うかのように快投を続けた。
2021年のチーム防御率はリーグ3位の3.48を記録。課題だった先発防御率も、2020年の4.83から今季は3.63と飛躍的に改善された。
来季は左の中継ぎ育成、大卒投手の飛躍に期待!
来季は追われる立場となり、黄金期と言われた1993年以来の連覇を目指すヤクルト。安定した強さを維持するためにも、さらなるベースアップは必須だ。中でも、今季は低調な結果に終わった正遊撃手争いにはハイレベルな競争を望みたいところ。また、今季は後半戦から先発要員の田口がその役を担ったが、左の中継ぎ投手も手薄。スペシャリストの育成にも期待したい。
さらに、奥川や高橋、金久保優斗ら、高卒の若手投手の飛躍はあったものの、近年のドラフト上位で指名した吉田大喜、木澤尚文、山野太一ら、大卒投手の台頭が乏しかったのは寂しい限り。今秋のドラフト1位で新たに獲得した山下輝(法大)らも含め、同世代で切磋琢磨しながら連覇を目指す高津体制3年目を支えてほしいところだ。