エチェバリア加入で危機感
“7番”や“8番”という打順で下位からチャンスメイクしたロッテの藤岡裕大は今季、新人時代の2018年以来3年ぶりに規定打席に到達した。
18年以降は規定打席に届かなかったとはいえ、遊撃のレギュラーとして君臨し、昨季も106試合に出場して、打率.229、4本塁打、33打点。CS進出を決めた11月8日の西武戦で決勝ソロを放てば、守備でも19年までは抜けていたような打球をしっかりと処理し、確実にアウトにする場面が増えた。
ただ、今季を迎えるにあたってドラフト会議で大学ナンバー1と呼ばれる小川龍成、さらにはメジャー9年間で通算922試合に出場したエチェバリアが加入。昨季までも鳥谷敬、平沢大河、三木亮、茶谷健太、西巻賢二、福田光輝らとレギュラーを争ってきたが、今季は実績のあるエチェバリアが加わり、これまで以上に結果が求められる立場となった。
「エチェバリアも加入してくるとなって、今年しっかり結果を残さないともう出られないという危機感もあった。本当に守備で結果を残すというよりは、打って結果を残すという気持ちが強かった」。
近藤との自主トレ
1月の自主トレでは、日本ハムの近藤健介と行いしっかりと打ち込んだ。「フォーム、ボールへのアプローチの仕方、いままでやってきたことと、ちょっとイメージが違いました」と実りあるものとなった。
昨季までは強く振る、下半身の使い方、タイミングについて口にすることが多かったが、「考え方とかフォームという部分ではだいぶ変わってきましたね。強く振るというよりは、イメージしたことをなるべく体でできるように、打球方向であったり打席内でイメージしていますね」とのこと。
それまではそこまで打球方向を意識することはなかったが、自主トレで近藤からアドバイスをもらってからそのように意識を持つように変更した。
開幕はベンチスタート
オープン戦では遊撃のレギュラーを争う新人の小川が練習試合、オープン戦からアピールし、オープン戦では12球団トップの5盗塁をマークし、ベテランの鳥谷も開幕前のオープン戦、練習試合で好結果を残すなか、藤岡はオープン戦の打率.185(27-5)とインパクトを残す活躍を見せることができなかった。
新人の18年から3年連続で開幕戦のスタメンを飾ってきた藤岡だが、3月26日のソフトバンク戦のスタメンに名前はなかった。
「出たいという気持ちももちろんありました。少ないチャンスをモノにできればなと思って見ていました」。
開幕3戦目の3月28日のソフトバンク戦で今季初スタメンを果たしたが、その後もスタメンの日もあれば、ベンチスタートという日もあった。もう一度、先発で試合に出続けるため藤岡は途中出場となった試合で、打ち続けた。守備から途中出場した4月2日の日本ハム戦、2打席連続で力強い打球をレフトへ放ち、今季初のマルチ安打を達成すると、同じく守備から途中出場した4月7日のオリックス戦で今季初の本塁打。
風向きが変わる。翌4月8日のオリックス戦で、3月31日の楽天戦以来久々に先発出場すると、エース・山本由伸から2安打。この試合をきっかけに再び先発での出場機会を増やした藤岡は、2試合連続でマルチ安打を放った4月13日の楽天戦後に打率は.407となった。
守っても、4月29日の西武戦で4-1の初回一死満塁から呉念庭が放ったセンター前に抜けそうな当たりを、遊撃の藤岡がダイビングキャッチ。三塁走者の生還を許すも、二塁へ素早くトスしアウトを奪う好守備を魅せた。
エチェバリア加入後も攻守に躍動
新型コロナウイルス感染拡大の影響で来日が遅れていたエチェバリアが、4月30日に一軍昇格。藤岡は2試合連続ベンチスタートとなったが、3試合ぶりに先発出場となった5月2日の楽天戦で左の早川隆久から2安打、5月9日のオリックス戦では遊撃で先発出場も、8回の守備から19年9月10日の日本ハム戦以来となる三塁の守備にもついた。
『8番・遊撃』で先発出場した5月19日のオリックス戦では、0-1の3回無死走者なしの第1打席、山本のストレートをセンター前に弾き返すと、一死二塁から1番・荻野貴司が詰まりながらもライト前にポトリと落ちるあたりで、藤岡が二塁から一気に同点のホームを踏んだ。
さらに2-1の4回二死一、二塁から荻野が詰まりながらもレフト前のポテンヒットで、再び二塁走者の藤岡が俊足を飛ばし一気にホームインした。
5月21日の楽天戦では、宋家豪から粘りに粘って13球目に四球を選ぶなど、球数を投げさせ、相手にいやらしさを与える打席だった。
遊撃の守備でも5月23日の楽天戦、0-0の初回一死走者なしから鈴木大地が放った二塁ベース付近の打球をダイビングキャッチし、一塁へワンバウンド送球でアウトにするなど、エチェバリアが一軍に昇格してからも攻守に躍動した。
下位からチャンスメイク
今季ロッテの売りのひとつとなったのが、下位打線の藤岡が出塁し、上位打線で還すという攻撃パターンだ。
「回のはじめに回ってきたときは汚いヒットでも、四球でもいいのでなんとか塁に出ようと思っています」。
「特に(試合)終盤になると、なんとか塁に出て上位に回さないと点につながる可能性が少なくなる。自分が出れば、上位で得点する確率が高くなる。終盤になればより、塁に出ようと意識しています」。
6月18日の西武戦では、0-0の3回無死走者なしの第1打席、先発・高橋光成から3ボール2ストライクから6球連続ファウルで粘り、12球目を選び四球で出塁すると、その後、荻野の犠飛で先制のホームを踏んだ。
8月19日の西武戦では0-3の7回無死走者なしの第3打席、増田達至の初球のストレートをライト前に弾き返すと、二死後、藤原恭大のセンター前に抜ける安打で三塁を陥れ、中村奨吾のレフト前安打で生還した。
8月24日の日本ハム戦では0-3の9回にセンター前安打で出塁し、先頭打者の役割を果たすと、続く田村龍弘のレフト線を破るあたりで一塁から長駆ホームイン。荻野、中村の適時打で同点に追いついた。先頭打者の藤岡の“中安”をきっかけに、引き分けに持ち込む価値ある安打だった。
得点圏でも勝負強さ
9月30日に行ったオンライン取材で「チャンスではそんなに打てていない」と自己評価しながらも、リーグ優勝を争う9月に入ってからは、チャンスメイクだけでなく、チャンスの場面でも打った。
9月3日の日本ハム戦で5-5の8回一死一、二塁から井口和朋が投じた6球目のフォークをライト前に弾き返す勝ち越しの適時打。9月26日の西武戦では2-4の5回に佐藤都志也の適時打で同点においつき、なお二死一、二塁という場面で、左の公文克彦が投じた初球のストレートをしぶとくレフト前に決勝の適時打を放った。
シーズンの得点圏打率は.258だったが、9月の月間得点圏打率は.333と勝負強さを発揮した。
好走塁
忘れてはならないのが走塁意識、走塁力の高さだ。
9月30日に行ったオンライン取材で藤岡は「普通にやっているだけ」と口にしたが、その走塁で1点をつかみ取り、一つの全力疾走が1点に結びついた。
6月8日のヤクルト戦、3-3の4回無死一、三塁から遊ゴロで、三塁走者の菅野剛士が生還し勝ち越し。打った藤岡の打球は併殺かと思われたが、一塁へ全力疾走していたこともあり一塁はセーフに。その後、柿沼友哉の犠打で二塁へ進み、荻野貴司の安打で生還。
6月18日の西武戦では2-0の7回二死一、三塁から荻野の打席で、1ボールからの2球目に一塁走者の高部瑛斗が二塁盗塁。捕手・森友哉の二塁への送球が高めに浮き、その間に三塁走者の藤岡がヘッドスライディングでホームインした。
6月24日のソフトバンク戦では、2-1の2回一死二塁から高部のボテボテの三塁へのゴロで、判断よく三塁へ進塁。8月25日の日本ハム戦では、0-1の5回二死三塁からショートへのボテボテのゴロで一塁へヘッドスライディングで内野安打とし、三塁走者の安田が同点のホームを踏んだ。
9月5日の日本ハム戦、0-0の2回一死一塁の第1打席、立野が3ボール2ストライクから投じた7球目のストレートを打ち打球はファーストに高くはねる。一塁・高濱のグラブにあたりボールが転がったものの、タイミング的には微妙だったが、全力疾走していたため一塁セーフ。その後荻野の適時内野安打、藤原の犠飛につながった。
藤岡は開幕ベンチスタートも、遊撃、三塁のレギュラーとして出場。打率は.255だったが、一時は2割8分を越えるアベレージを残した。シーズン通して“安定”した打撃を披露することができれば、二塁の中村奨吾とともに、不動のレギュラーと呼べる存在になるだろう。
文=岩下雄太