中日・大野雄大 (C) Kyodo News

◆ 「きょうは、うれしそうな表情を見られました」

 “特別な一勝”を噛みしめていた。

 4月1日、広島戦(バンテリンドーム)。先発した大野雄大は8イニングを投げて2失点。今季1勝目を手にした。

 「開幕戦で負けたときは申し訳なさがいっぱいで、監督の顔を見られなかったんです。きょうは、うれしそうな表情を見られました。握手は力強かったです。肩をポンポンとたたいていただきました」

 絶対的クローザーのライデル・マルティネスが締めて白星。

 立浪政権になって本拠地4試合目、バンテリンドームで初めて勝利を手にした。

◆ 第3子誕生のお祝いに添えられたメッセージ

 チームにとっても、大野雄にとっても特別なゲームだった。

 左腕には負けられない理由があった。3.25開幕・巨人戦(東京ドーム)で菅野に投げ負けた出直しゲーム、というだけではない。「感激しました」という開幕投手指名を受けていた。 

 昨年11月11日。秋季キャンプ中に第3子の長男は誕生している。その2日後、指揮官に呼ばれた。手渡されたご祝儀袋の表書きには「御祝 立浪和義」とあった。

 「ありがたいなと思ってお礼をして、受け取りました」

 ハプニングはその後に起こっている。「えっ…」祝儀袋の中に、もうひとつのメッセージがあった。

 “開幕任せた!”

 「武者震いしました」

 自宅には、沢村賞の金杯や金メダル、ノーヒットノーラン記念品などコレクションを飾る棚がある。

 「一番上に」。いつでも目に入る場所に置いた。

◆ “本拠地初勝利”でお返し

 立浪監督による開幕投手の公表は、沖縄での春季キャンプも終わった3月1日のこと。「(長男誕生の)お祝いがてら伝えました。『頑張ります』と言ってくれました」とメディアに明かしている。

 「お祝いがてら」の部分は本当のこと。「頑張ります」は、大野雄が思わず口にした言葉。事実を把握し、頭を整理し、振り絞った上で出てきた言葉だったのだ。  

 「感激しました。監督にこういうことをしていただいたら、オフは休む気にならないですよ」

 もともと、オフは休んできた。はっきり分からないのは、完全休養期間を設けることが、翌シーズンにプラスに働くかどうか。

 一定の休養に練習を加える。軽いキャッチボールでも、投げないのとは大違い。今年1月、距離を広げようとする後輩の小笠原慎之介に「もうええやろ。めっちゃ広がるやん」と突っ込んだのも、やりすぎは体へのダメージが大きいと分かっているから。

 肩に「ある程度の刺激」を入れながら、状態を常にチェック。4カ月かけて開幕を迎えている。

 開幕戦は勝てなかった。

 チームの今季初勝利は、開幕第3戦となる3月27日。左腕は公園にいた。娘2人を遊ばせていた。

 戦況が気になって仕方がない。2点を追いついた9回の同点劇は「歓喜です」。左手にはライブ配信を見るためのスマートフォン。娘2人と鬼ごっこ。パパは、子どもを追いかける。9回に大島洋平が放った同点適時打に右手でガッツポーズした。「やった!打った!と叫んでました」という。

 時にお調子者で、時に真面目。豊かな感受性を持つ竜のエースが、新指揮官に本拠地初勝利を贈った。

文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)

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