阪神・ウィルカーソン (C) Kyodo News

◆ 「本当に楽しかった」怪物との投げ合い

 まるで1冊の本を読んでいるような、濃密な162分だった。

 異なる武器を持った2人の演じた投手戦には野球の醍醐味、人生訓すら詰まっていた。

 5月27日に行われたロッテ-阪神戦(ZOZOマリン)。“主役”は最初から最後まで1人のはずだった。令和の怪物・佐々木朗希がタイガース打線の前に立ちはだかったからだ。

 序盤から常時160キロを計測する直球、150キロに到達するフォークで圧倒。糸原健斗の2打席連続安打、中野拓夢の二盗など必死に食らいついたが、1点がとてつもなく遠く感じる6イニングだった。

 それでもこの夜、佐々木に白星は付かなかった。とてつもない出力を白球に乗せ、6回90球で降板した幕張の背番号17のパフォーマンスの裏で、黙々とアウトを積み重ねた虎の背番号52。アーロン・ウィルカーソンは程よい高揚を感じながら腕を振っていた。

 「本当に楽しかったですね。自分の強みを生かしたピッチングができたのが本当に良かったですし、彼(佐々木)ともっと長く投げられたらなというところはありました」

 助っ人右腕に佐々木のような直球、強烈なウイニングショットはない。それでも、本人の言葉通り丁寧に低めをつき、多彩な変化球で的を絞らせない熟練の投球術で対抗。併殺を2個奪うなど、走者を背負っても慌てることなく、着実にイニングを重ねて投手戦に持ち込んだ。

 佐々木よりも長く、来日最長の8回までマウンドに立ち、スコアボードに8個のゼロを並べた。スコアレスのまま108球を投げ、ベンチへ戻った右腕。直後にハッピーエンドが待っていた。

 マリーンズの守護神・益田直也から、佐藤輝明が決勝点となる先制の中越えソロ。ウィルカーソンにチーム最多の4勝目が転がり込んだ。

◆ 「全員で取った勝ち」

 「本当に野球の良い所かなと思います。違う2つのタイプの投手が違った形で成功することができる。大事なのは自分がどのようなプレーヤーなのか、何ができるかを考えることかなと思います」

 32歳で米国から海を渡り、日本にやってきた右腕。これまでメジャーで、時にはマイナーでも真っ正面からぶつかってはいけない“才能”の数々と対峙してきた。

 苦い思いも経験しながら「自分の強み」「自分にできること」は洗練されていったはずだ。

 ずっと“アンダードッグ”として戦ってきた男にとって、佐々木とのマッチアップも臨むところだったのかもしれない。

 当初はエースの青柳晃洋が登板する予定だったが、疲労を考慮されて中7日となり、ウィルカーソンが2週連続の中5日で先発。青柳と佐々木の投げ合いを望む声が多かったかもしれないが、蓋を開けてみれば対照的な2人による見応えある投手戦に昇華した。

 最後まで「全員で取った勝ち」と繰り返した苦労人。その生き様が、若き豪腕を上回った痛快な夜だった。

文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)

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