9月に入り勝負強さを見せる安田
マリーンズファンにとって長年の夢だった“和製大砲”——。
9月の安田尚憲と山口航輝の豪快な一発を見ていると近い将来、シーズン20本塁打、いや30本塁打を期待したくなる。
安田がファームで本塁打王を獲得した19年、ロッテ浦和球場での試合前打撃練習から凄まじい打球を飛ばしていた。特に同年7月8日の日本ハムとの二軍戦の試合前打撃練習がすごかった。ライトスタンドの柱にあたる上段へ放つと、左中間にもスタンドインさせるなど打ち損じがなく、ほとんどフライをあげた打球だった。同年7月30日ZOZOマリンで行われた巨人との二軍戦では、ライト照明に直撃する推定飛距離150m弾。安田の長打に期待が高まるばかりだった。
しかし、一軍に定着した20年以降20年が6本塁打、21年が8本塁打、そして今季は7月が終了した時点で2本塁打と、一軍ではなかなかファームのときに見せていた本塁打が打てなかった。
安田は17年の新入団会見で「近い将来ホームラン王を獲ることが目標です」と掲げれば、プロ入り後も取材のたびに本塁打、長打への想いを口にすることが多かった。今年7月に行ったオンライン取材で、ホームランを打ちたいという気持ちは今も変わらずに持っているのか質問した。
「ホームランを打ちたいという気持ちは変わっていないですけど、高卒で入ったときとはまた違う考えというか、いまはどちらかというとより勝負強いバッティングであったり、自分の特徴でもある強いライナーでという気持ちの方が強いかもしれないです」。
この取材から約1カ月後の8月から勝負強い打撃に加え、長打が増えた。8月は月間4本塁打、14打点。8月27日の楽天戦では、これまで初球に見逃す傾向が多かったなかで、田中将大が投じた初球のストレートをライトスタンドに放り込んだ。久しぶりに安田らしい豪快な一発だった。翌28日も早川隆久から打った瞬間にそれとわかるライトスタンド上段に飛び込む第5号2ラン。
9月に入ってからも15日の西武戦で本塁打を含む1試合4打点の活躍を見せれば、18日の日本ハム戦では4-4の9回二死二、三塁の第5打席、1ボール1ストライクから石川直也が投じた3球目の外角134キロフォークをマリーンズファンが待つライトスタンドに第8号決勝3ラン。
安田は8・9月の2カ月で6本塁打、28打点と、マーティンが不在で長打の打てる左打者が少ないなかで、その存在感は高まるばかりだ。
弾丸ライナー系の打球が持ち味の山口
山口も安田と同じように、18年の新入団会見で「ホームランを30本以上打って、ホームラン王を獲りたいと思っています」と将来の目標に本塁打王を掲げた。
新人時代の19年、試合前の打撃練習では力強いスイングで、弾丸ライナーの打球がピンポン球のようにレフトスタンドに放り込まれた。1年目の19年はファームで6本塁打も、同年10月に行われたフェニックス・リーグでは4本塁打。フェニックス・リーグでは「シーズン中は一度も狙ったことがなかったので、しっかり狙って打てた。そこは良かったと思います」と、先頭打者本塁打とサヨナラ本塁打の1試合2本塁打を放ったこともあった。
20年はファームで全70試合に出場して、チームトップの7本塁打、30打点をマーク。プロ3年目の21年は一軍で9本のアーチを描くなど、持ち前の長打力を発揮していたが、確実性を欠き一、二軍を行き来した。
シーズン終了後にZOZOマリンスタジアムで行われた秋季練習での打撃練習、普段は弾丸ライナー系の打球を飛ばすことが多いが、この時は角度のついたフライ系の打球が多かった。22年に向けて本塁打数を増やすために意識して練習していたのだろうかーー。
「ホームランを打つためにどういう軌道でというのを確認しながらやっていました。だからそういう風になっていたのかなと思います」
ただ山口は「角度を気にしながら打っていたので、フライが多くなっていたかもしれないですけど、どうですかね、あまりライナーを打とうとか、フライを打とうとか考えずに、きたボールにだけ集中してしっかり捉えることを意識していますね。あとは角度次第になっているのかなと思います。まだ、そこまでの技術はないので」と、6月に行ったオンライン取材で語っている。
山口は9月7日の西武戦で自身初となるシーズン二桁本塁打を達成すると、22日のオリックス戦ではプロ入り後初となる1試合3本塁打、8打点を挙げた。9月は月間5本塁打、16打点、得点圏打率は.313。8月以降は6本塁打、22打点の成績を残す。
9月に入ってから上位を打つ荻野貴司、髙部瑛斗の“1、2番コンビ”が出塁し、安田、山口、井上晴哉などで還すという場面が増えてきた。長打という部分ではマーティン、レアードの2人に依存する形が何年も続いてきたが、ここへ来て“将来の大砲候補”と呼ばれていた安田、山口にも勝負所での価値ある一発、一打が出てきたも今後に向けて明るい材料。
頼りになる存在にはなってきているが、まだレアードやマーティンのようにシーズン通して本塁打、打点を量産していないのも事実だ。安田、山口ともに来年、シーズン通して8月、9月のような打撃を披露することができるようになったとき、“期待の若手”から本当の意味で“チームを背負う打者”になっているはずだ。まずは、残り試合で継続した活躍を見せて欲しい。
▼ 安田尚憲
今季成績:111試 率.264(360-95)本8 点43 得点圏.216
▼ 山口航輝
今季成績:94試 率.249(293-73)本14 点52 得点圏.282
文=岩下雄太