投手陣から厚い信頼
「マリーンズ残留を決めました。ここまで10年もお世話になっている球団ですし、吉井監督に球場でお会いした時に『田村の権利だから田村が決めればいい。ただ、ワシとしては残って欲しいなあ』と言っていただいたこと、チームメート、特に投手陣に残って欲しいと言われたことが素直に一番嬉しく残留することを決めました」。
ロッテは4日、キャプテンの中村奨吾とともに田村龍弘捕手もFA権を行使せずに残留すると発表した。
田村が「特に投手陣に残って欲しいと言われたことが素直に一番嬉しく残留することを決めました」と球団を通じてコメントを残しているように、投手陣からの信頼は厚く、ファームにいる投手陣に投球面の変化について質問すると、田村の名前が挙がることが多かった。その一部を紹介したい。
昨年ファームでリーグ最多の18セーブを挙げた小沼健太は昨年7月のオンライン取材で「田村さんに受けてもらったときに、自分の真っすぐとフォークを自信持って、その2つだけで抑えられるようにしろという言葉をもらいました。打たれてもその2つ。基本的にはその2つで抑えられるように、自分では意識的にやっています」と田村から助言をもらい、実際にストレートとフォークの2球種しか投げていない時期もあった。昨年8月1日の西武戦では4-3の9回に登板し、1イニングを13球で三者凡退に抑えたが、ストレートが10球、フォークが3球。長谷川に対しては6球全てストレートで二ゴロに仕留めた。
また小沼はその時の取材で「益田さんの(登板までの)作り方であったり、考えというのを田村さんに教えてもらったうえで、“お前の意識が低い”と言われました。逆に燃えたというか、やってやるぞ!という感じになりました。意識的に取り組んでいます!」と、モチベーションアップに繋がる声をかけてもらった。
今季も、「多分、ツーシームも1年目の時の方が落ちていたんですよ。空振りも取れていて」と納得のいくツーシームを投げられていなかった中村稔弥にアドバイスを送ったのが田村だった。
「田村さんに試合前(8月26日の楽天二軍戦)のブルペンで受けてもらっているときに、『ツーシームの球速が速くなっているよな』と言われて、ちょっと握りを深くというか、縫い目の外にして持ってああいう落ち方をしました。タムさんの一言がなかったら今まで通り投げていたのかなと思います」と、きっかけを与えてくれた田村に感謝。
「3年目、今年とかはあまり落ちなくて試行錯誤していました。この前の楽天戦(8月26日)のときの内田さんとかに投げたボールが、1年目のときの右バッターの空振りの仕方でした」と悩んでいた左腕に光をもたらす1球となった。
捕手陣にも助言
ライバルとなる捕手にも、昨季途中加入した加藤匠馬は田村にとってポジションを争うライバルだったが、移籍直後の加藤に投手の特徴について聞かれ情報を共有した。
「田村はロッテで長く出場しているキャッチャー。どういう風にリードしているのかな。僕より田村の方がロッテのピッチャーを知っているので、聞きにいったりしますね」(加藤匠馬)
今季リーグトップの盗塁阻止率を誇った佐藤都志也も「オフシーズンに自主トレで田村さんに色々教わったことを実戦でやっていくというなかで、徐々に止めていけたり、刺していけたりというのが自信につながっていったと思います」と6月に行ったオンライン取材で捕手として自信が出てきた裏に田村の存在を挙げていた。
田村は今年のキャンプB組スタートだったが、育成の村山亮介は春季キャンプ中のオンライン取材で、「田村選手は経験も長くて、いろいろ動きだったり声かけ、学ぶものが多くて、先輩として優しく教わっています」と話し、「サインプレーのサインの出し方、自分はほとんどやったことがないので、サインの確認、声出せとか、声の出し方とかたくさん教えてもらっています。参考にしてやっています」と育成のルーキーにも先輩として声がけをしたのが田村だった。
振り返れば、19年オフに鈴木大地が楽天へFA移籍した直後の20年の春季キャンプ、「去年(2019年)とかその前もそうだったんですけど、自分のことで精一杯になりそうなところもあった。自分のことも大事ですけど、しっかり周りを見ながらというところも。自分を見つめ直しながら、視野広くしてやりたいと思いますね」と当時話していたが、この3年で視野広く若手にも助言を送り頼りになる存在になった。
見えないところでチームの貢献度が大きいが、田村自身がプレーでチームの勝利に貢献する機会を増やしたい。今季は新人の松川虎生、“打てる捕手”・佐藤都志也がメインでマスクを被ったが、田村もこのままでは終わらないだろう。田村は右方向への繋ぎのバッティングに、一振りで決める長打力もある。走塁面でも昨年4月13日の楽天戦では、角中勝也が放った二塁へのゴロで二塁手がお手玉している間に、三塁走者に続き二塁走者の田村もホームインする好走塁など、“1つ先の塁”を狙った走塁ができる。もちろん、守備面では冒頭から何度も述べているように投手陣からの信頼は厚い。
「来年、しっかりと期待に応えて、田村はまだいけるという姿を見せたいです」。あとは来季、吉井理人新監督のもとで、もう一度レギュラー奪い返すだけだ。
取材・文=岩下雄太