後輩への声がけ
“アジャ”の愛称で親しまれるロッテの井上晴哉。シーズン最終盤の9月、7日の西武戦で本塁打を含む3打点をマークすれば、同月14日の日本ハム戦では決勝の適時打を放つなど、9・10月は打率.295(88-26)、4本塁打、19打点と復活の兆しを見せた。
井上は今年の7月で33歳となり、“ベテラン”と呼ばれるような年齢に差し掛かってきた。その中で、プレー面での活躍だけでなく、今季は若い選手に積極的に声をかけたり、盛り上げる場面が目立った。
6月17日のヤクルトとの二軍戦、高卒2年目の西川僚祐がレフトへ本塁打を放ち、ベンチに戻ってくると、井上、柿沼友哉、廣畑敦也らでお笑いコンビレギュラーの西川くんの気絶ポーズでお出迎え。西川は「あれは(井上)晴哉さんが考えてくれたやつなので、晴哉さんがベンチにいてからこそのという感じがあります」と舞台裏を教えてくれた。
8月11日のソフトバンク戦では、トミー・ジョン手術から2年ぶりに一軍のマウンドに帰ってきた種市篤暉が降板後、ベンチで井上と話し合っている場面もあった。「長く一緒にリハビリをしたり、一軍の感覚はこうだったよなと話をしたりコミュニケーションは、野手よりピッチャーの方でリハビリトレーニングをやっていた。投手と喋る機会が多かった」と、井上も昨年10月29日に右手関節三角繊維軟骨損傷に対しての関節鏡下にて縫合術を受け長い期間リハビリに励み、その間に投手陣と会話することが増えたという。
「その機会じゃないと投手と喋ることがなかった。それを機会に喋るようになって、種市もリハビリで一緒だったので、昨日(8月12日取材)投げて2年ぶりやっと投げられたなという会話はしました」と明かした。
ポジションを争う後輩
ここ数年、安田尚憲、山口航輝といった将来を担う若手の大砲候補が台頭。夏場、井上の当たりが止まっていた時期には、山口が一塁のスタメンで出場し、井上がベンチスタートということもあった。
井上自身、安田や山口といったポジションを争う若手選手についてどう思っているのだろうかーー。
「同じチームメイトですし、本当はバチバチやりたいけど、そういう感じでもない。見せつけるというのは一番大事だと思うんですけど、彼らが試合に出ている以上は応援をしたい。ライバルではあるし、試合は出ていたら応援をしたいですね」。ベンチスタートが多かった8月12日のオンライン取材で井上はこのように答えている。
「思い悩んでいるようだったら声をかけたりはしますし、あんまり若い子達には下を向いて欲しくないなと思っているので、極力明るい話題、野球と関係のない話を振ったりして、あんまり下を向かせないようにしています」。
井上自身も若い時に当時現役だった福浦和也コーチ、細谷圭さんから声をかけてもらっていた。先輩から教わってきたことを、井上自身もやろうとしているのだろうかーー。
「そうですね、僕も結果次第で気持ち的に沈んだりしたので、その時に先輩方が声をかけていただいて、なるほどな、野球以外のことを考えてその打席を忘れるというか、次に切り替えろというところで切り替えられないのがある。そのなかでも普通の会話ができれば、気持ちにもまだ余裕があるのかなと声をかけたりします」。
先輩から学んだこと、よくしてもらったことを後輩へ良い伝統として受け継がれている。井上をはじめとした一軍経験豊富な選手たちが、若い選手たちがプレーしやすい環境を作っているのだろう。来年は若手、中堅、ベテランがうまく噛み合って優勝すればさらに良い。
取材・文=岩下雄太