侍ジャパンの主軸として見せた「強さ」
スワローズ不動の4番として大きな期待を一身に背負う村上宗隆、23歳。WBC日本代表「侍ジャパン」では打線の中軸を担い、14年ぶりの世界一奪還に貢献した。2023年シーズンの開幕を3月31日に控え、彼の「挑戦」が再び始まろうとしている。
WORLD BASEBALL CLASSIC™(WBC)の1次ラウンドでは全試合で「4番」を任せられたが、打率.143と不振にあえいだ。その中で国際大会ならではの戸惑いがあったことを明かしている。
「ボールは見えていると思うんですけど、ストライクゾーンが少し掴めてなかったりとか、アウトコースが広かったり、高めが広かったりというところで、自分の打席の中で見逃したボールがストライクと言われたり、そういった揺らぎもあった」
それでも「これも国際試合なので、自分の感覚を大事にしながら、迷うことなくスイングしていきたいと思います」と、しっかりと前を向いたのが、村上らしい。
村上を新人の頃から知るヤクルトの髙津臣吾監督は「簡単にへこたれない強さ、簡単に弱みを見せない強さというか、そういう強さというのを(村上は)持っていると思います」と話し、こう続けた。
「人に言えないしんどいこともたくさんあるでしょうし、彼の頭の中はわからないですけど、やっぱり悩んでいることも相当あるでしょうし、そういうところも見せなかったり、克服しようと努力する姿勢であったり、しっかり我慢する忍耐強さであったりというのは素晴らしい」
イタリアとの準々決勝で2安打を放って復調の気配を見せた村上。迎えたメキシコとの準決勝では、9回無死一・二塁の場面で中越えのサヨナラ二塁打を放つと、決勝戦では、アメリカに先制された直後にチームに勢いをもたらす同点の本塁打を右翼席上段へと叩き込んだ。
WBCで印象に残ったのは打席だけではなかった。イタリア戦で岡本和真が放った3ランに対して、一塁走者の村上はベースを周りながらガッツポーズ。その姿は、自身が本塁打を打ったときよりも喜びを表現していた。
走塁面では、牧秀悟の右翼フライで二塁から三塁にヘッドスライディングする闘志あふれる姿勢も見せ、見る者の胸を熱くした。
髙津監督が感じる村上宗隆の“人間性”
髙津監督は、二軍監督時代から村上の野球に取り組む姿勢を間近で見続けてきた。それだけに、現在の村上の成長ぶりを肌で感じている。
「18歳の頃から一番違うのは人間性というか、人としてというか、周りもしっかり見えるし、気遣いもできる。そういうところは非常に成長したなと。大人になったなと実感します。そこが野球に取り組む姿勢であったり、ベンチで悔しいときでもチームのために声を出したりというところにつながっているのかなと思います」
若くしてスワローズを引っ張る村上について、髙津監督は「彼には数字では表せない素晴らしさというところもたくさん持っている。なかなかそこを理解してもらうというのは少ないかもしれないですけど、それだけ野球だけじゃない色んなことに素晴らしさを持った男」と称えた。
「よく長岡(秀樹)と(内山)壮真にも声をかけていますし、(チームでは)先輩の方が多いんですけど、その中でも野球、生活を、みんなといる時間を楽しもうとしています」と、チーム内での様子から、指揮官は村上の人間性を感じ取っている。
侍ジャパンの一員としても、仲間に対する思いや、チームメイトと一体となって世界一を目指す姿が印象的だった。
そして、大谷翔平という存在が、さらなる高みを目指す村上にとって大きな刺激となったに違いない。「さらに目標を高く設定させられる大会になりました」と村上。髙津監督は村上の性格を推し量りながら、こう話す。
「負けず嫌いなのは間違いない。どんな球でもどんなピッチャーでも打ちたいと思っていますし、誰よりも遠くへ飛ばして誰よりもホームランを打ちたいと思っているのは確かですね」
村上は昨季、22歳という若さで歴史的な記録を打ち立てた。日本選手最多となるシーズン56本塁打を達成し、史上最年少で三冠王を獲得。今季はそれを上回るキャリアハイに向けてチャレンジしていく。
そんな村上に対して、髙津監督がさらに期待していることは何かを聞いてみた。
「僕はずっと18歳の頃から彼を見てきて、毎日の成長であったりとか、1年ごとの成長であったりというのをすごく感じてきたので、それを引き続き、緩やかな曲線でもいいですから、少しずつでもいいから成長していってほしいなというのは思います。少しずつでいいので、これまでと違う成長した村上宗隆というのを見せてほしいなと思っています」
2023年シーズンがいよいよ開幕する。日の丸を背負い戦い続けた村上にとって、難しいシーズンインとなるが、最後に髙津監督はこう話した。
「ここに(侍ジャパンに)選ばれたからシーズン駄目でしたでは、本当の侍メンバーとは言えないかもしれないですね」
そんな厳しい言葉も、村上への揺るぎない信頼があってこそ。村上宗隆は、今年もきっと成長した新たな姿を我々に見せてくれるだろう。
取材・文=別府勉(べっぷ・つとむ)