大きな故障なく一軍戦に出場
「色々いいこともあり、悪いこともあって、僕の中で充実していましたね」。
ロッテの田村龍弘は今年1年をこのように振り返った。田村は18年に全143試合出場を果たしたが、19年以降は19年が『急性腰痛症』、20年が『右手第2指末節骨剥離骨折』、21年が『左大腿二頭筋肉離れ』、『左内腹斜筋損傷』と毎年のように故障に泣き、昨季はファームで過ごす時間が長く、一軍に定着した15年以降では最も少ない2試合の出場に終わった。
今季は9月28日に特例2023で抹消した以外は大きな故障をすることなく一軍で戦い抜き、78試合に出場。「本当に満足はしていないですけど、去年は試合に出られなくて1年間ほぼファームにいた。すごくレベルの低い話ですけど、今年はこうやって1年間最後まで一軍で試合に出たり、出なかったりですが、入れたというのはここ数年怪我続きでずっとやっていたので、無事に完走できたというのは来年につながるなと思います」。
日ハム戦でスクイズ
打撃面に関しては「まあバッティングは数字にも出たように、数字で貢献できなかった部分しかなかったと思います」と話したように、打率は.166だった。「その中でチーム打撃、バントだとかセーフティスクイズ、進塁打、自分にできることの最低限の仕事は自分の中でやりました」と、5月14日の日本ハム戦では無安打ながらもスクイズを決めたり、満塁の場面できっちりと犠飛、6月5日の阪神戦では6打席で阪神投手陣に31球を投げさせたりもした。
試合前の打撃練習では、すり足で打ったり、足を大きく上げて打ったりと、試合で結果を残すため様々なフォームで打っていた。「うまくいかないことが多かったので色々考えながら、福浦コーチ、村田コーチと相談しながら、ノーステップで打ってみたり、すり足で打ってみたり色々やりましたけど、それでも結果が出なかったのでまたこの秋からしっかりやりたいと思います」。
守備面での貢献度の高さ
田村といえば守り、守備面での貢献度は非常に大きかった。今季8勝を挙げた西野勇士はそのうち6勝が田村とのバッテリーで挙げた。西野は「配球の面ではタム(田村龍弘)に任せている。あいつが組み立てくれている中で、このボールはこういうふうに使っていけるんだと自信とかを持たせてくれた。引き出しがそれのおかげで増えているのかなと思います」と感謝。
田村は「打てない時こそ守備で貢献するというのはキャッチャーの宿命だと思うし、それでもうまくいかないことが多かったですけど、西野さんとは昔から組んでいるのでわかっているつもりなので、そこは良かったと思います」と振り返った。
後輩投手に対しても、中村稔弥は「感覚が良くなったのはそこからですね」と、2年目以降試行錯誤していたツーシームだったが、昨年8月26日の楽天二軍戦でのブルペンで「田村さんに試合前のブルペンで受けてもらっているときに、『ツーシームの球速が速くなっているよな』と言われて、ちょっと握りを深くというか、縫い目の外にして持ってああいう落ち方をしました。タムさんの一言がなかったら今まで通り投げていたのかなと思います」(22年8月31日オンライン取材)と、同日の試合で内田靖人から真ん中低めに落ちるツーシームで空振りを奪ったのをきっかけに、今季も感覚良くツーシームが投げられるようになった。
中村稔だけでなく、田村よりも年下の投手を取材していると田村の名前があがることが多い。後輩投手に対しての助言で、どういったことを心がけているのだろうかーー。
「助言というより、自分が受けていて良かったとき、悪い時というのは受けている側が一番わかるし、“こうしろ”とは言わないですけど、“こういうふうになっているよ”、“こうしたほうがいいんじゃないの”というアドバイスはキャッチャーである以上、先輩、後輩、関係なく思ったことを伝えていくのが役目かなと思っています」。
「そういうところは積極的にいいところも悪いところもピッチャーに言ってあげないと、案外投げている側が気づかないところがあると思うので、そこは。受けている側なのでいい時と悪い時がわかると思うので、そこはこれからも続けたいなと思います」。
先頭に立って引っ張る
鈴木大地がFA移籍した2019年オフ、若返りが進んでいく中で、中堅の年齢に差し掛かりつつあった田村は20年の春季キャンプで「先頭に立ってというところは心かげているところ。先頭に立って引っ張っていきたいという思いがあるから先頭に立ってやっています」とウォーミングアップから先頭に立ってチームを引っ張った。あれから3年以上が経ち、投手陣からの厚い信頼、試合前練習中に若手選手に積極的に声がけなどを見ていると、立派に中心選手として成長したように見える。
ただ本人は「まだまだ本当に口だけになっているので、しっかり結果とかでもっと引っ張っていかないといけないと思うし、そこだけですかね。結果を出して引っ張っていかないと誰もついてこないと思う。守備が今年はうまくいってというのはありますけど、日々努力しないといけないなとつくづく思いましたね」と、リーダーとしての自覚を持っているが、成績面では満足していない。
ついこの間プロ入りしたと思った田村も、来年の5月で30歳になる。「今年1年間本当に怪我せず完走できたので、さらに体のケアだったりだとかスイング、スローイング全てにおいてパワーアップできると思う。5、6年後に全盛期が来るわけじゃないと思うので、来年、再来年が分かれ道かなと思います。しっかりと体を作っていきたい。やれる限りのことは全部やろうかなと思っています」。来年に向けた準備は始まっている。
取材・文=岩下雄太