背番号73を背に
「まだアップしたいなと思いますよ。違和感あります」。2023年シーズンで現役引退を決め、育成コーチとして指導者に転身した藤田一也は、ついこの前まで一緒に汗を流していた仲間を見つめながら素直な心境を吐露した。
3日から始まった秋季トレーニングの初日、真新しい背番号73のユニフォームに身を包みコーチデビューを果たした藤田は、全体で挨拶を終えたあと早速ノックバットを握り、知野直人や林琢真らを相手にノックの雨を降らせた。
その後も林にバントやバスターの指導を丁寧に行い、青山二軍監督や田中浩康コーチらと真剣に野球談義に花を咲かせるなど、精力的に動き回った。
CSで敗退したあと「この期間に休んで切り替えた」と明かし、この日にコーチとして歩みだした。73番については「たまたまなんですが、僕の誕生日だから覚えやすいでしょ」とニヤリ。合流の挨拶も「来年の春のキャンプで挨拶しなければならないので、すごくあっさりと。実りあるトレーニング期間にしましょうと、それだけです。ここで喋っちゃうと、春も同じこと喋ってるとなっちゃうので」と現役時代と変わらぬユニークさで回りに笑顔の花を咲かせた。
肝心のコーチ業には「練習はしなかったのでめっちゃ不安だったんですけれども、初日からノック打たなあかんのやと思っていたので。これからしっかりとやります」としながらも、華麗なバット捌きは不変。「ずっと思ってましたけど、ノックは大事で、ノッカーも大事ですから。野手が上手くなるようなノックを打てるようにこれから頑張ります」と、“守備だけで10勝の価値がある"と楽天時代に当時の星野仙一監督に言わせしめたグラブさばきを伝授することを目論んだ。
今後の目標は「一軍で活躍する選手を育てたいなと思います」とキッパリ。現役時代から数多くの選手にアドバイスを求められていたが「いままで聞かれたときだけ答えとくというイメージだったのですけど、これからは気がついたらどんどん教えていこうと思います。育成コーチという立場なので、色々な面でアドバイスできたらなと思いますね」と、ポジションにこだわらない立場を活かして指導に当たる方向性を示した藤田“コーチ"。
スタメン、代打、守備固め…そして日本一と様々な経験を活かし指導する“ハマの牛若丸"の第2章がこの日スタートした。
写真・文・取材 / 萩原孝弘