ロッテ残留の決め手
プロ野球のFA申請期限最終日となった14日、FA権を持つ選手たちが権利を行使するか、しないかで朝から話題が持ちきりとなっている中で、ロッテの田村龍弘は11月9日にFA権を行使しての残留を早々に表明した。
「決め手は、このチームが好きなのでここで現役を終えたいなと、最後までこのチームでやりたいなという気持ちは強くありますね」。
これまで荻野貴司、益田直也、唐川侑己など、FA権を持っていた選手たちの多くが残留してきた。そういった先輩たちを見てきて、何か感じる部分はあったのだろうかーー。
「別にないですね。みんなが残っている理由は、このチームが好きというのが一番だと思います。また、みんながチームとしてロッテが一番良いと判断しているんじゃないですか。そう思いますけどね」。
その一方で田村自身は昨季初めてFA権を取得し、他球団の評価を聞いてみたいという考えはなかったのだろうかーー。
「去年はすごい思いましたけど、今年は別に他球団の評価とか聞くほどの成績も残していないですし、そこまで自分に自信があるわけではない。だったらこのチームで与えられたところでやっていく方が自分にとっていいかなと思いましたね」。
では、田村にとってマリーンズの良さとはどういったところなのだろうかーー。
「特に今年思ったのは監督はじめ、首脳陣の方が野球をやりやすい環境を作ってくれました。どうしても試合に出始めた若い選手ってどこかでベンチと戦ったり、監督の目を気にしたり、そういうことを意識してやる子が多くて、それってすごいマイナスなことだと思います」。
「今年戦っていて思ったのは、そういうことを意識する選手がいなくて、しっかりと割り切ってやらせてもらえるというか、自分たちのプレーに集中できる環境がすごく今年はありました。誰一人、ベンチの顔を気にして野球する選手はいなかったと思いますし、それがすごくチームの雰囲気の良さに繋がったのかなと思います」。
「チームが負けだすと元気がなく、沈むというのはありがちなことですけど、本当に今年はそういうことがなかった。もちろん試合でのプレッシャーというのは、誰もが感じているところだと思いますけど、自分たちのチームに対するプレッシャーというのはなく、自分たちのプレーに集中できていたんじゃないかなと思いますね」。
また、常に熱い声援で選手を後押しするマリーンズファンの声もしっかりと届いている。
「やっている側からしたらすごい力になりますし、自チームながらすごい応援だなと感じています。特にクライマックスシリーズの時はすごく思いましたね。正直、逆にあれがプレッシャーに感じる時もあるし、それを力に変えることができる選手というのは最高のパフォーマンスができるのであって、そのプレッシャーに負ける選手ももちろんいると思う。自分だって声援でプレッシャーに感じることはいっぱいあるので。でもそれだけのファンがいるということなので、ありがたいことだなと思いますね」。
「まだまだ若いし中堅くらい」
プレーヤー田村に目を向けると、来年でプロ12年目、5月には30歳となり中堅、ベテランと呼ばれる年齢に差し掛かりつつある。
「僕もベテランじゃなく、まだまだ若いし中堅くらいなので、本当に自分より下の子が試合にいっぱい出てきて、すごく経験してきてると思う。野手とかに特にいうことはないと思いますけど、ピッチャーで一軍経験の浅いピッチャーとかを、どうやって引っ張っていくかが大事。野手というよりは僕は、バッテリーでまだ一軍経験の浅いピッチャーをなんとかというのを常に思ってやっていますけどね」。
今季8勝中、田村とのバッテリーで6勝を挙げた西野勇士は「配球の面ではタム(田村龍弘)に任せている。あいつが組み立てくれている中で、このボールはこういうふうに使っていけるんだと自信とかを持たせてくれた」と感謝の言葉を述べれば、取材をしていると若手投手陣からも田村の名前が挙がることが多く、投手陣からの信頼は厚い。
打撃面では打率こそ.166だったが、今季チームトップの15犠打、走者が二塁の時に右方向に打って走者を進めるなど、献身的な打撃を見せた。
「チーム打撃ができないと、絶対に試合に出られないところだと思います。自己犠牲は大事になってくるので、継続してやりたい。数字のところもこれ以上、下がることはない。上がるだけだと思うし、今年は1年間通して打てなかったですけど、あまりそこを深く考えすぎてというのは嫌なので。今年は今年ダメだったので、そこを克服するために秋季練習もそうだし、来年の自主トレ、キャンプから伸ばしていかないといけないなと思いますね」。
「野球人である以上は絶対に優勝したい」
チームとして、来季こそ1974年以来となる勝率1位でのリーグ優勝、2010年以来の日本一達成を、マリーンズファンは望んでいる。田村自身も「野球人である以上は絶対に優勝したい」と力強く語る。
「今年はチームとしての野球がすごく出来ましたけど、僕自身の成績でチームにとってマイナスな部分がすごく多かったので、そういう個人の成績というのはチームのためになるわけですから、必ず上げないといけない数字。そういう意識は持ってやりたい。チームプレー、チームプレーと言いますけど、そこもすごく大事ですけど、個人のところがしっかりしないとチームプレーにならない。来年は個人の成績を上げることがチームプレーになることもあると思うので、そういうのは意識したいですね」。
最後に田村にとってマリーンズとはと問うと「僕はFA宣言して残留を決めてロッテで最後を終えたいと思っているので、僕の人生になると思います」と返ってきた。“ロッテ愛”を貫き、現役最後までマリーンズで全うすることを誓った田村龍弘。チームとして“常勝軍団”を掲げる中で、マリーンズ投手陣を知り尽くし、チーム全体を俯瞰して見渡せる田村が来季以降もロッテでプレーすることは非常に心強い。
取材・文=岩下雄太