練習試合で5ホーマーも…
「自分自身にとって情けないシーズンだったと思います」。
ロッテ・山口航輝は、唇を噛んだ。2月の練習試合で5本の本塁打を放ち、オープン戦でも2本のアーチを描いたが、開幕してから2月の練習試合で見せていた打撃を披露できず、今季初本塁打は4月25日の西武戦、80打席目。さらに4月30日には『左大腿二頭筋損傷』で一軍登録抹消となった。
「開幕前に自分の思い描いた通りにならない中で、焦りというのはありました。高いところを目指してきたぶん、自分にがっかりすることもたくさんありました。まだまだ足りないなと思う部分は開幕前から思っていましたけど、開幕して改めて自分の力のなさを感じました」。
5月28日に一軍再昇格を果たすと、30日の巨人戦で今季第2号ソロを放てば、6月5日の阪神戦では一時逆転となる第3号3ランを含む5打点の大暴れ。7日のヤクルト戦では第4号3ランを含む3安打の活躍を見せ、11日の広島戦で第5号満塁本塁打。交流戦は打率こそ.227だったが、12球団2位の15打点。交流戦明けも6月27日のオリックス戦で0-1の9回に平野佳寿からライト前に一時同点となる適時打、7月1日の楽天戦では6-2の5回一死走者なしの第3打席、弓削隼人が2ボール1ストライクから投じた外角高めの138キロストレートをバックスクリーン右に本塁打。山口らしい“逆方向”への一発だった。
「もっともっと右方向に強い打球、ホームランとかを打ちたいと思いますし、1回ファームに落ちて色々考えることが多かったです。そこでひとつ成長できたと思うので、怪我して良かったわけではないですが、怪我して気づくこともたくさんあったので、そこは自分のモチベーションというか、それまで試合に出ていても苦しかった。毎日何をしてもうまくいかない、その中で試合に出してもらっているので、なんとかしないといけないという気持ちと頭がついてこないというか、そういった部分もあってファームに落ちた時に一軍の試合を見て、どんな状況であっても上で試合に出られることは、幸せなことだなと感じたので、家で何してるんやろうなと感じで見ていました。そこで落ちた1ヶ月間というはいい時間になったのかなと思います」。
後半戦
「これだけ試合に出させてもらって、打席にも立たせてもらって、こんな成績では絶対に終われないと思っているので、後半戦しっかりチームの力になれるように、そこだけはちゃんと意識してやっていきたいなと思います」。
こう意気込んで迎えた後半戦、オールスター明け2試合目となった7月23日のソフトバンク戦で、早速レフトスタンドに後半戦初本塁打を放つと、前半戦最後の試合となった7月17日の楽天戦から8試合連続安打。7月を月間打率.276、3本塁打、10打点で終える。
「体は動きやすいので、暖かい方が好きですけど、暑さに弱いので、どうですかね、すぐへばっちゃうので、ベンチとかでしっかりなんやろ、クールダウンしながら、アイスしながらなんとか凌げればいいかなと思います」。
8月に突入すると、3日の日本ハム戦、4-2の5回二死三塁の第3打席、山本が2ボール2ストライクから投じた6球目のボール気味の外角150キロストレートをライト前に逆らわず適時打を放てば、4日の楽天戦で2年連続となる第10号ソロ。状態が上向いてきたかと思われたが、8月8日〜10日のオリックス戦で、徹底的にインサイド攻めにあい、この3連戦11打数0安打と1本も安打を放てず。15日の日本ハム戦では加藤貴之のインコース攻めの前に2打席連続三振。
「自分のやることをやるしかない。そこは続けてやっていくだけだと思います。いろんな場面、場面で変わってくると思うので、進塁打とかあると思うのでそういうところをしっかり、はい。こんな打率なので。そういうこともしていかないと思います」。
山口は苦しんでいた。なんとか立ち直ろうと、とにかくバットを振った。8月23日のソフトバンク戦の試合前練習では村田修一打撃コーチが投げる球を黙々と打ち、打撃練習が終わった後は、村田コーチから身振り手振りアドバイスをもらった。翌24日も全体練習前の練習で村田コーチが見守る中、ピッチャー方向に少し前に立って打ち込んで打撃投手のボールを打ち込み、途中から村田コーチが投げる緩い球を打った。同日の試合前打撃練習では左の打撃投手の時にセンターから右方向を中心に打ち、この日の全体練習は多くの時間を打撃練習に充てた。
8月29日の日本ハム戦、高校時代からのライバル・吉田輝星のカットボールをレフトへ本塁打。高校時代からの対戦を含めてライバルから初の本塁打となったが、山口は「打ててよかったなというところで、自分の状況が状況なので、ほっとした気持ちが一番です。打てたことは良かったですけど。別にそんなに楽しむこともなかったので、あまり特別感はなかったです」と、目の前の試合で結果を残すことに必死だった。
この一発を境に再び安打が戻る。翌30日の日本ハム戦から2試合連続マルチ安打、9月1日の楽天戦ではレフトへ第12号ソロ。9月5日のソフトバンク戦では第13号ソロを放った。9月6日のソフトバンク戦では、0-2の4回二死走者なしの第2打席、有原が投じた3ボール2ストライクから6球目のインハイストレートをセンター前に安打と、“インコース”をしっかりと対応。翌7日のソフトバンク戦では初回に第14号2ラン。21日のソフトバンク戦では、2-4の8回二死走者なしの第4打席、松本が2ボール2ストライクから投じた5球目の外角152キロストレートを逆らわずにライト前に弾き返した。
9月23日に特例2023で一軍抹消となったが、30日に一軍昇格。同日の西武戦、昇格初打席でライト前に安打を放つと、この日4打席立ち、「一つの目標としてあったので、そこは達成できて良かったと思います。これだけ低い数字でも打席立たせてもらったので、監督、コーチ陣に感謝したいと思います」とプロ5年目で初めてシーズン規定打席に到達した。10月6日のオリックス戦では4安打の固め打ち。5年目の今季は115試合に出場して、打率.235、14本塁打、57打点の成績だった。
CSでは決勝犠飛
「やることは変わらないので、今まで通りチャンスに回ってきたらランナーを返すだけ。そこは短期決戦なので、行くしかない」。
絶対に負けられない楽天とのシーズン最終戦に勝利し2位でクライマックスシリーズ進出を決めたロッテは、本拠地・ZOZOマリンスタジアムで3位・ソフトバンクとCSファーストステージを戦うことになった。
山口は2年前の本拠地・ZOZOマリンスタジアムで行われた楽天とのCSファーストステージで、6打数4安打、1本塁打2打点の大暴れ。ファーストステージの開催地は2年前の舞台と同じ本拠地となったが、「相性とかもいいとか悪いとかあまりないと思うので、とりあえずやるべきことをやるだけ。全員でそういう形でやっていければいいなと思います」。
ファーストステージは3戦で8打数0安打だったが、チームはオリックスとのCSファイナルステージに進出を果たした。山口はCSファイナルステージ初戦に『7番・一塁』で先発出場すると第3打席に今CS初安打。翌第2戦では、5-5の9回一死三塁で田村龍弘の代打で登場し、山岡泰輔が1ボール2ストライクから投じた外角の縦スライダーをセンターへ決勝の犠飛。チームはこの試合に勝利したが、オリックスに1勝4敗で敗れ、2010年以来の日本シリーズ進出ならず、今年の戦いを終えた。
今年1年を振り返り
今年は苦しんだ時期もあったが、自信を持ててやれた時期もあったのだろうかーー。
「自信はないです、ダメなところばっかりで、はい。次のシーズンが怖いなとも思います」。
具体的に“ダメだった”部分について「確実性も少ないですし、三振も多かった。もっとホームランも数を伸ばしていかないといけない。打点もまだまだ稼がないといけないなと思います」と反省。
マークが厳しくなったことも関係していたのだろうか。「今年1年本当に厳しく攻められて、崩されるバッティングになっていたので、バッテリーに結構攻められて、崩れてしまった。自分のスイングができないまま、1年経ったのかなと思います」。
特にファームの時は外角のスライダーを見逃していたが、今季はインコースを意識させられた後に、外角の変化球で空振り三振に倒れるケースが多かった。
「逆に逆方向に狙いすぎて、外のゾーンを広げすぎたというのはありましたね。最初の方はインコースが多くて、勝手に目線がインコースになっていたぶん、外のボールを振ったと思うんですけど、後半は逆方向に打ちにいこうとしすぎて、外のボールを広げすぎたのかなと思います」。
秋季練習
この秋は「確実性をしっかり上げるためにやっていくのと、体全体を使ってもっともっと、今追い込んで体もきつい状態ですけど、その中でも下半身から使ってバッティングをしないと意味がないと思います。そこは意識してやっています」と“確実性”を上げることを重点に置いて、バットを振った。
フェニックス・リーグから戻ってきた11月1日の秋季練習では両足が突っ立ったフォームで両腕を高く上げたフォームで打ったり、2日の練習では左足を大きく上げて打ったり、ノーステップ気味で打ったり、少しヒッチしたようなフォームで打ったりと、「福浦さんとか修さん(村田修一打撃コーチ)と話しながら、今しかできないことを色々と試したりしています」と色々な構えを試していた。
打球方向も「今はセンターを中心に返すことをイメージして、コースに逆らわないように。全方向にホームランを打つためにやっていかないといけないと思っています」と、どの方向でも本塁打が打てるように練習した。
また、バットも「岡本和真さんモデルです。(CSの)最後からこの形のバットで打っていました。(CSで打っていた)白黒(のバット)と同じ形なので、松ちゃん(松川虎生)からもらって打っています」と、巨人・岡本和真モデルの黒茶のバットで打撃練習を行った。
岡本和真モデルのバットを使うようになった理由について山口は「振りやすいしバランスも良かったので、試してみて良かったのでちょっと使ってみようかなと思って使っています」と説明した。
秋季練習が終わり、この冬は「まずはしっかりと1年間戦える体、体力をしっかりつけて、食事の面だったり、私生活の面で野球に対して意識を高く持ってやっていきたいと思います」と決意。
「今年はこんな結果で終わったので、しっかりとした成績を残せるようにまずはアピールから入らないといけない。しっかりレギュラーを取れるようにやっていきたいと思います」。来季こそプロ入りから目標に掲げる“30本塁打”達成、そして不動のレギュラーとしてチームを引っ張る活躍に期待したい。
取材・文=岩下雄太