欧州代表だが「ラテンアメリカ・カリブ連合軍」の色が濃い
昨年、プロ野球アジアチャンピオンシップで見事優勝し、初陣を飾った井端監督率いる新生・侍ジャパンが春のテストマッチに臨む。その相手、ヨーロッパ(欧州)代表28人の選手が3日、来日した。
ヨーロッパと言えばサッカー大国で野球のイメージはないが、実は世界野球を統括するWBSC(世界野球ソフトボール連盟)の本部は、スイス・ローザンヌにある。欧州代表は2015年春にも侍ジャパンと相まみえており、この時は1勝1敗で星を分けている。
「欧州」代表と言っても、今や野球強国のひとつとなったオランダには、野球の盛んなカリブの海外領土にルーツのある選手、イタリア、スペインにはドミニカ共和国、ベネズエラ出身の選手が多数おり、今回の代表チームも「ラテンアメリカ・カリブ連合軍」の色が濃い。これらラテン系選手にヨーロッパ系選手を加えて今回のチームが世界野球ソフトボール連盟・WBSCによって結成された。その国の名を挙げると、オランダ、イタリアの「欧州ツートップ」に加え、スペイン、ドイツ、それに昨年のWBCで日本の野球ファンの心をわしづかみにしたチェコとなっている。
今回の国別のメンバーの構成は、オランダが最多の8人。これにスペインの7人、イタリアの6人、そしてチェコとドイツから各3人、スイスの1人が続く。ただし、先述のようにラテンアメリカ・カリブ地域出身者がメンバーの大半を占め、5人のベネズエラ出身者、2人のドミニカ出身者、1人のブラジル出身者の加え、キュラソーをはじめとするオランダのカリブ領出身者が4人いる。
ほとんどの選手にプロ経験があるか、今シーズンにプロでプレーする予定があり、2人はメジャーリーグでもプレーしている。
投手陣は3Aやメキシカンリーグ経験者が名を連ねる
投手陣は14人。先発には、3Aの経験もあり、3シーズンプレーしたウインターリーグ、オーストラリアンベースボールリーグでは、アデレードでプレーした2018-19年シーズンに先発の柱として10試合に登板、5勝3敗、防御率1.10をマーク。オーストラリア人、アメリカ人以外では初のリーグMVPに輝いた経験のあるマルクス・ゾルバック(ドイツ)。
マイナーリーグでは先発として64試合に登板し、通算11勝を挙げ、昨シーズンは、オランダトップリーグ、フーフトクラッセの強豪ネプチューンズのローテーション投手として7勝を挙げたトム・デブロック(オランダ)、かつて欧州に存在したプロリーグ、イタリアン・ベースボール・リーグのサンマリノでプレーし、2013年には、リーグ記録の15勝を挙げるなど、通算64勝17敗を記録しているブラジル出身のチアゴ・ダシルバ(イタリア)らが有力だ。
現在メキシカンリーグのデュランゴ・へネラレスのローテションピッチャーを務めるダシルバは、この冬はベネズエラでもプレー。2月にカリビアンシリーズに出場しているので体は出来上がっている。
フーフトクラッセで昨シーズン、32歳にして14勝1敗、防御率1.65で最多勝、勝率、防御率の投手三冠に輝いた昨年のWBCメンバーのケビン・ケリー(オランダ)も先発候補だが、彼はリリーフ経験も豊富で、先月キュラソー代表として出場したカリビアンシリーズでもリリーバー役を務めていたので、リリーフに回る公算大だ。
あるいは、昨年、トップリーグ、セリエAのパルマで6勝1敗、防御率0.59という成績を残した昨年のWBC代表メンバー、マテオ・ボッキ(イタリア)の先発もあるかもしれない。
面白いのは、マルティン・シュナイデル (チェコ)だ。38歳の彼は、2007年よりチェコ代表の主力選手としてプレーし、国内トップリーグ、エクストラリガでは二刀流選手としてホームラン王、最多安打、打点王、最優秀防御率各1回、盗塁王、最多得点を各2度獲得している。前回のWBC予選大会では、本戦出場のかかった大一番のスペイン戦に先発し、6イニング1/3を1失点に抑え、チームを勝利に導いた。東京ドームでの本戦にも出場し、ここでも先発起用されたオーストラリア戦で5イニング2/3を1失点で切り抜ける好投をみせた。本業が消防士ということで話題になった。
リリーフにもタレントが揃っており、3Aやメキシカンリーグの経験があり、マイナー通算29勝13敗25セーブのダニエル・アルバレス(スペイン)、昨年のWBCや先月に行われたカリビアンシリーズにも出場。マイナー通算107試合に登板しているフランクリン・ファンフルプ(オランダ)らが控えている。
この投手陣を支えるのキャッチャーは3人登録されているが、マイナー通算433安打で3Aやメキシカンリーグでのプレー経験のあるガブリエル・リノ(スペイン)が中心になると思われる。彼の以外のアルベルト・ミネオ(イタリア)、マルティン・チェルベンカ(チェコ)は共に昨年のWBCで来日している。ミネオは準決勝の日本戦で代打で出場し、大勢(巨人)からセンター前ヒットを放ち、チェルベンカは4番正捕手としてチェコ代表を支えた。
メジャーリーガーを擁する打線もあなどれない
打線でまず最初に名前が挙がるのが、アレックス・リディ(イタリア)だ。イタリア生まれイタリア育ち初のメジャーリーガーである彼は、2011年にマリナーズでメジャーリーグデビューを飾り、3シーズンで通算61試合に出場し、ホームランも6本放っている。2012年の東京ドームの開幕シリーズの際にも来日し、巨人、阪神とのプレシーズンゲームに出場している。現在はメキシカンリーグを主戦場とし、2019年の一時期は台湾の名門・中信兄弟でもプレーした。WBCには2009年大会以降、3大会連続で出場中の彼が打線の中心になるのは間違いないだろう。
彼とともに打線の中核を担うのは、先月のカリビアンシリーズでキュラソーの準決勝進出の立役者となったメジャーリーガーの兄弟コンビだ。
兄にパドレスのジュリクソンをもつのは、ジュレミー・プロファー(オランダ)だ。メジャー経験はないものの、101試合の3Aでのプレーを含む通算 639試合にマイナーリーグで出場している。昨シーズンは、北米独立リーグのひとつ、フロンティアリーグのカナダ球団、ケベック・キャピタルズで100安打、14ホーマーを記録した。
もうひとりは、ジョナサン(現在FA)の兄、シャーロン・スコープ(オランダ) 。彼もまた、3Aまで上り詰め、マイナー通算942試合に出場している。昨年のWBCにも出場している。2019年以降は本国のトップリーグであるフーフトクラッセのアムステルダム・パイレーツに在籍し、通算で3割を超える打率を残している彼も侍ジャパンにとって不足ない相手である。
彼らの他、忘れてはならないのはもうひとりのメジャーリーガー、エンヘル・ベルトレ(スペイン)だ。ドミニカ出身25歳は、レッドソックスと契約し、2007年にルーキー級ガルフコーストリーグでプロとしてのキャリアをスタートさせ、2013年にメジャー昇格を果たし22試合に出場している。彼もまた、昨年の欧州選手権で優勝したスペイン代表のメンバーである。
昨年ヨーロッパチャンピオンに輝いたスペイン代表からは国内リーグでホームラン王を4回獲得し、ドミニカ生まれのスラッガー、エディソン・バレリオ(スペイン)も今回のメンバーに名を連ねている。
フィールディング面では、デラノ・テラッサ (オランダ) に注目したい。今回は外野手登録だが、元々はショートを守っていたマルチプレーヤー。アメリカのアリゾナ・ウエスタン大学でプレー後、母国トップリーグのフーフト・クラッセで2016年からプレーし、この年にはU18欧州選手権の代表チームにも参加している。2019年のチャンピオンシップでMVPに輝いたほか、2023年にはシーズンMVPを受賞したオランダを代表する野手のひとりである。
昨年のWBCで話題をかっさらったチェコからは、先に挙げた捕手のシュナイデルの他、本職は所属クラブのグランドキーパー兼コーチながら、中国戦で3ランホーマーを放ち、歴史的な勝利の立役者となったマルティン・ムジーク、昨年シーズン北米独立リーグのアメリカン・アソシエーションのレイク・カントリー・ドックハウンズで34試合に出場し、.325の打率を残したマレク・フルプが名を連ねている。
文=阿佐智