◆ 白球つれづれ2025・第12回
さあ開幕だ。日本のプロ野球が28日から熱戦の火ぶたを切る。
注目ポイントは、いくつもあるがルーキーたちのフレッシュな活躍に期待したい。現時点で最も輝いているのはロッテの西川史礁(みしょう)選手だろう。
オープン戦での働きは、もう新人の枠を超えている。
最終戦となった23日の巨人戦で5打数3安打の固め打ち。通算打率は.410。規定打席には達していないが、オープン戦首位打者の中日・岡林勇希選手(.364)をはるかに凌ぐ。各チームのエース級が出揃う直近の5試合でも17打数8安打と打ちまくり、開幕スタメンを文句なしに掴んだ。
「二番・左翼」での出番が多いが、クリーンアップに抜擢されてもおかしくない。何せ打率と打点でチームの二冠。スーパールーキーはこれ以上ない滑り出しを見せている。
西川の非凡な打撃は「積極性」と「修正力」が大きな特徴である。自らは持ち味を問われて「フルスイングと確実性」と語っているが、一見、相反する長所を併せ持っているから成績も残せる。
23日の巨人戦が即戦力の実力を証明している。
巨人の先発左腕・石川達也から初回に右前打すると、2回はチェンジアップに空振り三振するが、続く第3打席では、同じチェンジアップを左前に運び、7回には2番手の泉圭輔投手から右前打で猛打賞。ほとんどの打席で初球からフルスイングを実践し、なおかつ抑えられた後の次打席では研究と対策を怠らない。本来は長距離打者だが、広角に打てる器用さも併せ持っている。オープン戦4割は確かな技術に裏打ちされているのだ。
青学大の四番としてリーグ4連覇に貢献。昨年は宗山塁(楽天)金丸夢斗(中日)選手らと共に大学生ながら侍ジャパンにも招集されて、素材の良さは証明されていた。
ドラフトではオリックスと競合の末にロッテが抽選で獲得。だが、5球団が競合した“20年に1人の逸材”宗山に注目と人気が集まり、陰に隠れた格好のプロのスタートだった。その宗山も楽天の遊撃手として開幕スタメンが確実視されている。強打の西川と攻守走・総合力の宗山。大学時代からのライバル関係は同じプロ、同じパ・リーグでしのぎを削ることになる。
ロッテにとって、西川への期待はとてつもなく大きい。
「チームの顔」でもあった佐々木朗希投手がドジャースへ移籍。人気面でも新たなスター選手が欲しい。加えて長打力不足が指摘される打線強化でも、西川はキーマンとなり得る素材だ。
昨季の3位から、さらに上位を目指す中で打線のパワーアップが求められる。
同年のチーム打率.248はリーグ2位ながら、得点力や本塁打では優勝したソフトバンクから大きく水を開けられている。近年主軸打者への成長が期待される安田尚憲、藤原恭太選手らが伸び悩み、打線の核となる日本人野手が心もとない。こうした中で西川が主力に定着すれば、人気面でも、打線のパワーアップでも変革の主役になるはず。
「目標は全試合出場と3割、2ケタ本塁打。将来的には本塁打王も目指したい」と語る西川の打撃スタイルは阪神の森下翔太選手を彷彿とさせる。好球必打のフルスイングと勝負強さでプロ3年目の今季から四番を任される。その虎の主砲と比べても大学時代の実績は上回り、長打力でも「森下以上」と評論家は口を揃える。
今春のあるインタビューでソフトバンクの近藤健介選手が、この大物ルーキーの打撃を激賞している。
「スイングスピードが速いし、何より打ってくれそうな雰囲気を持っている」と分析。昨年は首位打者とMVPに輝いた日本一の天才打者のお墨付きも前途を後押しする。
ロッテの過去の新人王を見てみると、野手では1997年の小坂誠までさかのぼる。宗山らのライバルを倒して西川が新人王を獲得すれば、チームは優勝争いに加わっているだろう。
開幕はソフトバンクが相手。すでに開幕投手として予告されている有原航平を相手に、オープン戦同様のロケットスタートが切れるか。過去に落合博満や井口資仁らレジェンドOBも身に纏った背番号「6」の新たな物語が始まる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)