健闘をたたえあうソフトバンクの小久保監督(左)と阪神・藤川監督 (C)Kyodo News

◆ 白球つれづれ2025・第44回

 ワールドシリーズの興奮がまだ冷めやらない。

 第7戦まで持ち越されたドジャース対ブルージェイズの激闘は延長11回までもつれこむ。最後はウィル・スミスの決勝本塁打を「中0日」で連投の山本由伸投手が守り切って世界一連覇。

 大谷翔平選手が超人的な働きを見せれば、佐々木朗希投手もポストシーズンは3セーブの活躍。そして山本が文句なしのMVPだ。日本人にとって、これほど誇らしい舞台もない。

 トロントが熱狂と落胆に包まれている頃、日本球界は一足早く、来シーズンに向けて動き出していた。

 ソフトバンクの小久保裕紀監督と阪神の藤川球児監督。日本シリーズで相まみえた二人の指揮官が揃って同じ言葉を口にしている。

「一度、チームを壊します」。

 先月30日に幕を閉じた日本シリーズはソフトバンクが4勝1敗で5年ぶり12度目の日本一の座をつかみ取った。

 敗軍の将となった藤川監督が痛感したのは攻守両面にわたる「パワーの差」だった。全5戦を通じて阪神のチーム打率は.193で、同本塁打はゼロ。同防御率は3.72と低調な数字が並んでいる。

 これに対してソフトバンクはチーム打率が.266で、同本塁打5に、同防御率1.53とすべての部門でライバルを上回っている。

 加えて勝負所で山川穂高、柳田悠岐、近藤健介らの看板選手がさすがの技量を発揮したのに対して、猛虎は自慢のクリーンアップも森下翔太、大山悠輔両選手のブレーキが響いて得点力が低下。さらに首位打者の牧原大成選手や成長株の野村勇選手らが名を連ねる下位打線だけを比較しても、阪神の場合は6番打者以下が機能していない。

 解説していた岡田彰布前監督(現球団顧問)も「ショートとレフトがな」と迫力不足をなげいていた。シーズン前の構想では前川右京選手の定着を期待したが、伸び悩み左翼と6番打者に穴が空く。ショートも小畑竜平選手をレギュラー格で起用するが打撃は弱い。ここに捕手の坂本誠志郎と9番に投手では大きな得点は期待できない。特にパ本拠地ではDH制が採用されると指名打者の切り札不足も痛手となった。

 打線でパワー不足を露呈したうえに、投手陣でも同様な懸念が現実になる。

 シリーズ終了後に藤川監督は「パワーのある中継ぎ投手育成」を今オフのテーマに掲げている。

 今季の阪神は圧倒的な投手力で頂点を掴んだ。

 中でも及川雅貴、石井大智、岩崎優投手で組む“勝利の方程式”は藤川野球の屋台骨を支えている。

 ところがソフトバンクの抑えトリオは、その上を行っていた。

 藤井皓哉、松本裕樹、杉山一樹の3投手は、いずれも150キロ超の快速球とスプリットを操る。ここでもパワー不足を露呈した形となった。

 では、勝者である小久保監督のチーム改造計画のポイントはどこにあるのか?

 今季のソフトバンクはシーズンを通して故障者が続出した。主だったところだけでも柳田(脛骨損傷)近藤(脇腹痛)栗原陵矢(脇腹痛)周東佑京(腓骨骨折)などレギュラー陣が揃ったことがない。それでも栄冠を手に出来たのは、開幕時点では控えに甘んじていた柳町達や野村、川瀬晃選手らが成長して、その穴を埋めていったからだ。「ケガの功名」といってもいい窮余の若返り策がチームに新たなエネルギーを吹き込んだ。

 気がつけば、柳田が来季は38歳を迎えるばかりか、中村晃、今宮健太、山川、牧原大らも30代中盤に差し掛かる。こちらもチームを一から作り直す時期に差し掛かっている。

 小久保、藤川両監督は「同じことをやっていては勝てない」とも口を揃えた。

 今年、敗れたチームは人事を刷新して、早くも秋季キャンプをスタートさせている。

 27年にDH制が採用されるセリーグでは、今まで以上にパワフルな打線が求められる。一方のソフトバンクはライバル・日本ハムが若手を中心に急成長しているから、更なる強化が必要になる。

 王者たちも立ち止まっている暇はない。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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