未来の球界を予言していた、35年前の野球漫画がある。
週刊少年マガジン1991年第34号から始まった、『名門!第三野球部』の「飛翔編」である。高校野球漫画の名作として知られ、フジテレビの土曜夜7時半の枠でアニメ化もされた第三野球部だが、意外とこの飛翔編は未読の読者も多いのではないだろうか。元いじめられっ子の主人公・檜あすなろ(桜高校)の成長物語でもあった高校野球編が完結して、舞台はプロ野球編に突入。セ・リーグ7球団目のお荷物球団のチーム名は「千葉マリンズ」。オープン戦で13戦全敗の5年連続最下位チームである。もちろん現実世界に千葉ロッテマリーンズが誕生する前の架空の設定だ。
酒に溺れるベテランの神龍一は、ルーキー時代に投手として20勝、そして打者としても25本塁打を放った、時代を先取りしすぎた二刀流男である。しかし、マリンビールを経営するオーナーから「選手は商品や。ワイのとこのビールとおんなじや!」と罵倒され、思わず殴ってしまい20年間も二軍で飼い殺される。

問題だらけの千葉マリンズは、ドラフト1位で9球団競合の超高校級サウスポー桑本聡(銚子工業高校)を引き当て、2位で檜あすなろを指名。オーナーは茨城の家電メーカーへの球団身売り計画を進め、優勝なんかされたら困ると、一軍の主力レギュラー6名を二軍に。ベテランの神を20年ぶりに昇格させ、同じく二軍でくすぶる33歳の走り屋・野森をベンチ入りメンバーに。巨人……ではなく拒人との開幕投手には、安くこきつかおうと話題のルーキー桑本を指名する。オーナーは一軍の黒姫監督を操り、様々な現場介入と妨害工作を試みるが、やがて選手たちは勝利に向かって結束する。落ちこぼれ軍団・千葉マリンズの逆襲が始まるのだ。
そんな『名門!第三野球部』は、1989年8月8日にバンダイから高校野球編のファミコンソフトが発売されている。「少年マガジン30周年記念ソフト」と銘打たれた本作は、原作序盤の名台詞を再現したり、試合中に漫画の吹き出しで選手たちの会話も入る。パッケージ箱にはお馴染みの名台詞「ぼくたちはクズじゃない!」も登場。メインのドラマチックモードでは、桜高校で甲子園優勝を目指す。
ちなみに当時のファミコンではプロ野球だけでなく、高校野球ゲームも『甲子園』(ケイ・アミューズメントリース)、『水島新司の大甲子園』(カプコン)、『究極ハリキリ甲子園』(タイトー)と定期的にリリースされる人気ジャンルだった。国民的娯楽の野球が題材のゲームであれば、テーマはプロアマ関係なくそこそこ売れたのである。
だが、『名門!第三野球部』を、よくある高校野球を舞台にしたファミスタ風画面のキャラゲーでしょと軽い気持ちで遊んだ当時の少年たちは、度肝を抜かれることになる。このゲームは、投手の投げる球が暴力的に速いのだ。ファミスタで言ったら体感時速200キロ超え。ボールがリリースされた瞬間に山勘でバットを振る刹那の操作テクが求められる。少年時代は慣れればすぐ適応できても、動体視力が衰えている令和の中年ゲーマーには難易度が高い。

しかも、第三野球部は桜高校三軍の設定のため、自軍の選手データは基本低く、相手チームに大きく劣る。だからヘタクソなお前たちには練習しかないと、試合モードの合間には鬼頭監督からゲーム性皆無のノックを浴びせられ、単調な投球練習を繰り返すストイックな特訓モードも強制的に課せられるのだ。
下剋上達成のポイントは、元一軍の四番打者で監督を殴って三軍降格となった、“桜高の落合”こと海堂タケシの前にいかに走者を溜めるか。俊足の白石兄弟でコツコツとバット寸止めで転がして出塁すると、バント戦術を多用して走者を進め、海堂で返す。投手はあすなろの酷使で乗り切るしかない。仮に海堂が敬遠でもされると途端に厳しくなる、あの頃の星稜高校の松井秀喜状態である。

まだマガジン連載真っ只中でのソフト化のため、ドラマチックモードは途中からオリジナルストーリー(甲子園大会ではプロ野球チームがモデルの全国から優秀な生徒を獲得した「きょにん高校」も登場)だが、それでも原作の弱小高校の成り上がりストーリーを忠実に再現してみせた激辛ゲームバランス。ヌルいキャラゲーとは一線を画したソフトだ。ちなみにこのコラムを書くにあたり、久々にクリアを目指したが、6時間近くプレーしても甲子園決勝はまだ勝てていない。
ユーザーにやさしい令和の親切設計の野球ゲームに慣れた今こそ、大型連休中にじっくり挑戦してみたいソフトである。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)