◆ 白球つれづれ2026・第17回
ドジャース・大谷翔平選手の連続試合出塁記録が53で止まり、バットも湿りがちだった先週、日本人メジャーリーガーの中で主役の座に躍り出たのはホワイトソックスの村上宗隆選手だった。
全米でも「村上特集」が組まれるほど、注目度は急上昇。日本のホームランアーチストは世界の本塁打王として脚光を浴び始めている。
そのバットに火がついたのは、現地時間17日のアスレチックス戦からだった。開幕直後のブルワーズ戦で3本塁打を量産したものの、その後成りを潜めていた豪打が炸裂する。
センター方向に放たれた6号を皮切りに同3連戦で3発。さらに続くダイヤモンドバックス戦でもアーチをかけて5戦連続で10号の大台に乗せる。
この時点で5戦連発はメジャー新人タイで大谷が持つ日本選手最長記録に並んだ。しかも24試合目での10号到達は球団&日本選手最速の記録まで生んでいる。
これだけではない。25日のナショナルズ戦では、チェンジアップに体勢を崩されながら、最後は右手一本で右中間に11号本塁打を放ち、ついにアストロズのヨルダン・アルバレスに並びアリーグの本塁打レーストップに躍り出た。
27日現在打率こそ「.232」と低いが、出塁率と長打率を足したOPSでは一流打者の指標とされる0.8台を大きくクリアする「.935」を記録。ちなみに両リーグを代表するスーパースターのヤンキース、アーロン・ジャッジが「.929」で、ドジャースの大谷は「.876」だから、どれだけ優秀な数字かがわかるだろう。
22年には打撃三冠王に耀いた若き大砲は、早くから抱いていたメジャー挑戦の夢を昨年オフに実現した。
しかし、超大型契約を予想されていたものの、ふたを開けてみるとホワイトソックスと2年総額3400万ドル(約53億400万円、金額は当時のレート、以下同じ)と、意外な低さに終わった。
ちなみに昨オフは岡本和真選手(巨人)がブルージェイズに4年総額6000万ドル(約94億円)、今井達也投手(西武)が3年総額5400万ドル(約83億7000万円)で契約している。1年単位にならしても、村上が最も低額となる。
当時、メジャー関係者の中では村上の不安要素が指摘されていた。
多くのデータから弾き出された打撃のウィークポイントは、内角高めの速球と外角に流れていく変化球への空振りの多さ。次に守備の弱さ。メジャーの三塁は務まらないと言われている。加えて三冠王の直後から故障がちで、成績も下降カーブにあった。内野も外野も守れる岡本の方が使い勝手がいい、と言う声まで聴かれた。
しかし、いざメジャーでのシーズンが始まると村上の非凡さが発揮される。
チームメイトのコルソン・モンゴメリー内野手が開幕前に村上をこう評している。
「彼はグレートだよ。パワーがあり、頭が良く、自分のスウィングやプロセスを深く理解している。リスペクトすべきことだよ」
メジャーの“動くボール”対策として、ヤクルト時代より、右脚のあげる高さを低くして“すり足”に近い打法改造にも取り組んだが、実戦を重ねるうちに、体の動きをコンパクトにすることで対応。外角球の空振りは選球眼を磨くことで克服している。センター方向に強い打球を打てるのもコンスタントに本塁打を量産できる秘訣となっている。
今では、現地マスコミも「残りの29球団はなぜ村上を獲得しなかったのか?」と球団の運営論までに言及したり、「近い将来、村上と吉田正尚(レッドソックス)のトレードも」と言った憶測記事までが掲載されている。
村上の活躍にも関わらずチームは現在11勝17敗でアリーグ中地区の4位に低迷している。近年は下位に沈むことも多く、今季の場合は村上も負けることから「なおホ」なる新語も誕生している。
これまでのメジャーの流れを見ると弱小チームにスラッガーが出現すると、多くは数年後に強豪チームにトレードされる。村上の場合も例外ではないだろう。それどころか、村上サイドが数年後のステップアップを狙って、短い年数の安価な契約を結んだ可能性も指摘されている。
もし、今季新人王や30本塁打以上を記録すれば、ヤンキースやドジャースのような金満球団が触手を伸ばすはず。そうなれば新たなトレードマネーは破格の数字に跳ね上がるだろう。
まだ、160キロ近い剛速球投手との対戦は少ない。11本のホームランはいずれもベルト当たりの好球だと言う指摘もある。長丁場で再びスランプもやって来る。それでも日本からやって来た侍長距離砲が、全米を虜にしている事実は変わらない。
大谷翔平がベーブ・ルースを超える男なら、村上はホームランでルースにどれだけ近づけるか。日本国内のスポーツシーンでもまだまだメジャー・ジャックが続きそうだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)