本盗決めたソフトバンク・周東 (C)Kyodo News

◆ 白球つれづれ2026・第19回

 久しく見ていない光景だった。

 10日に行われたソフトバンクvsロッテ戦。勝負の流れを決めたのはソフトバンクの周東佑京選手の「脚」である。

 0-2のビハインドで迎えた3回裏。二死三塁の場面で三走の周東が何とホームスチールを敢行する。ロッテの捕手・松川虎生のタッチと間一髪のプレー。一度は球審が「アウト」の判定も、ボールは周東の勢いに押されるようにグラウンドに転げ落ちていた。一挙に同点だ。単独での本盗(一、三塁からの重盗などを除く)は、1997年にヤクルトの稲葉篤紀が記録して以来実に29年ぶりと言う。確かに久しぶりに見るレアなプレーだった。

「度肝を抜かれた」と試合後に語った小久保裕紀監督は、こうも続ける。

「脚でこんなに空気が変わる」。

 この回、先頭の庄子雄大選手が安打で出塁した直後に周東の一打が右翼フェンスを直撃する。庄子も周東に負けず劣らずの韋駄天男。2人の速いこと。あっという間に庄子が一塁から生還すると、三塁まで進んでいた周東のビッグプレーはその直後に起こった。まさに電光石火の本盗だった。

 このプレーをもう少し、掘り起こしてみる。

 二死三塁で打者は三番の柳田悠岐選手。ロッテのマウンドには新人左腕の毛利海大が立っている。

 一般的に左腕の場合、三塁走者は大きなリードを取りやすい。一方で打席には主砲の柳田だから、常識的にはリスクを冒す場面ではない。だが、もう一つの大きなポイントが隠されていた。

 データ重視の現代野球では左の強打者が打席に立てば、内野手は全体的に右寄りに守備シフトを敷く。この場面でもロッテの寺地隆成三塁手は遊撃寄りに動いている。周東ほどの快速ランナーなら盗塁を注意するのは当たり前だが、二死で打者が柳田なら本盗を仕掛けて来る確率は低い。

 ところが、周東はそんなわずかなスキを見逃さなかった。三塁コーチャーの本多雄一コーチに耳打ちすると、三本間の真ん中あたりまで離塁した直後に加速して本塁へ滑り込んだ。

 捕手・松川のミットからボールがこぼれ落ちたプレーにロッテ・サブロー監督は「捕っていれば普通にアウト」と振り返ったが、ここにも現代野球の難しさがある。こうしたプレーの時、昔なら捕球したグラブに右手を添えると指導してきたが、今は片手プレーが当たり前。両手を使ってプレーするより、素早さと広いカバーが容易になるからだ。こうしてみると、わずか1秒足らずの中に、いくつもの要素が詰まった29年ぶりの本盗だったことがわかる。

 世にも珍しいホームスチール、と言うことでその歴史を調べてみると意外な人物に行き着く。何と現役時代は「鈍足の」捕手だった野村克也氏だ。

 南海(現ソフトバンク)での現役時代に7度の本盗を決めたと記されている。当時は今ほど管理された野球ではない。鈍足の野村が三走なら、セットポジションも取らず、無警戒にワインドアップで投げることも珍しくない。スキを突く野村野球のルーツを見る思いがする。

 そして、2004年のオールスターゲームで本盗を決めて、MVPに輝いた新庄剛志(現日本ハム監督)も、野村の教え子なら、29年前に本盗を成功させた稲葉篤紀が所属していたのはヤクルトで、当時の監督は野村。さらに付け加えるなら2020年の阪神戦で1イニングに二盗、三盗、本盗を決めて67年ぶりの快挙と騒がれたのが村上宗隆選手(現ホワイトソックス)。こちらも野村ID野球の血を受け継ぐヤクルト出身である。

 今では、球界随一のスピードスターとなった周東が塁に出れば、得点の確立ははね上がる。そこに現役ナンバーワンの強打者・近藤健介がいて、栗原陵矢選手も絶好調。11日現在、首位のオリックスと2.5ゲーム差の2位とは言え、投手陣の再整備が進めば大きな死角は見当たらない。

「脚にスランプなし」。野球界でよく使われる言葉である。今季から年俸4億円を稼ぎ出す男。それだけの価値と輝きはある。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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この記事を書いたのは

荒川和夫

1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中

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