◆ 白球つれづれ2026・第30回
佐々木麟太郎選手が、日米争奪戦の末に、フロリダ・マーリンズ入団を表明する。ドジャースの山本由伸投手は日米通算100勝の区切りに達する。
メジャーリーグの話題は、日本人選手だけでも豊富だ。
米国時間7月24日、コロラド・ロッキーズの菅野智之投手がメジャーデビュー以来2年連続で2ケタ勝利を記録した。日本人メジャーリーガーの中では野茂英雄、松坂大輔、ダルビッシュ有、田中将大、前田健太に次ぐ6人目の偉業達成である。
同日に行われたブリュワーズ戦に先発すると6回途中まで2失点にまとめると10勝目が記録された。この時点でチームはナ・リーグ西地区の最下位(42勝63敗)に沈んでいる。つまり菅野はチームの4分の1近くを一人で稼ぎ出している。6月以降は無傷の6連勝中。見事な仕事人ぶりだ。
巨人の大エースとして君臨した分、メジャー挑戦は遅れた。
田中将や前田とは1歳違い。ライバルたちが20代で活躍の場をメジャーに求めたのに対して、菅野が念願のオリオールズに入団したのは35歳になった昨年のこと。1年目から10勝10敗と先発ローテーションを守る活躍だったが、オフには自由契約となり、ロッキーズに新たな居場所を求めた。
1年契約で、年俸は510万ドル(約8億4150万円、推定、以下同じ)。
メジャーのエースクラスは30億~40億も当たり前の時代に、安価な10勝投手と言えるだろう。
今年の10月で37歳を迎える年齢面に加えて、球威や被打率、奪三振率などから弾き出される数値は決して高くない。いや、メジャーの先発投手の中では下位に位置する。それでいて、結果を出せるのは菅野の投球術の巧みさにある。
スピードがないなら、低めにコントロール良く制球出来る。本塁打を打たれても投球を乱すことはない。最少失点で試合を作る術を知っているから、白星を積み上げられる。今季20本の本塁打を浴びているが、走者を置いた場面の被弾は3度だけ。いかに危機察知能力の優れた投手かがわかる。
そんな菅野に、今新たな注目が集まっている。
2年連続2ケタ勝利を受けてMLBの公式サイトでは「スガノがまた安定した投球でトレード価値を高めた」としたうえで「低コスト(年俸)で、先発の4~5番手を任せられる」と今季中の移籍まで言及しているのだ。
メジャーでは、この時期に最後の駆け込みトレードが行われる。ポストシーズンをにらんで、上位を狙うチームは更なる補強に動き、下位に沈むチームは主力選手を放出しても、若手の有望株を獲得して来季以降のチーム作りに活用する。このトレード期限は米国東部時間の8月3日午後6時(日本時間4日午前7時)と決められている。
現地放送局のESPNが発表したトレード候補100人のうち菅野は87位。
上位の有力選手から、商談が進むのが常で、菅野の場合もすでに水面下で動きが加速していてもおかしくはない。
日本の常識から考えると、チームの勝ち頭を、おいそれと放出することは考えられない。だが、チーム再建中のロッキーズは、映画「マネーボール」で話題を呼んだポール・デポデスタ氏を編成本部長に招請して、将来90勝を出来るチーム作りを目指している。球団側の考え次第で放出もあり得る。すでに移籍先としてブリュワーズ、カブス、ブレーブス、パドレスらの名前も挙がっている。
一方で、現場を預かるロ軍のウォーレン・シェイファー監督は「スガノは真のプロフェッショナルだ」と高く評価。もちろん残留の目も残されているが、近日中に去就が決まる。
米国に渡って、2年間で2球団を渡り歩き、今季中に3球団目となれば「さすらいのエース」と言えるだろう。それでも任された場所でベストを尽くすのが菅野流の生き様である。
背中の張りなどで故障者リストに入ることも珍しくない。それでも36歳の老雄は進化を求めて新たな挑戦を続ける。
大谷翔平や山本由伸らのような注目度はなくても黙々と右腕を振る。これも偉大なメジャーリーガーの姿である。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)