中日・井上一樹監督 (C)Kyodo News

◆ 白球つれづれ2025・第13回

 祈るようなまなざし。静寂の後に訪れる安堵と歓喜。

 一発勝負の高校野球ではない。対DeNAとの開幕2戦目に勝利した中日・井上一樹新監督の目から、その直後に涙が零れ落ちた。

 1-0の辛勝。10安打を放ちながら最少得点しか奪えない打線を、先発の松葉貴大から清水達也、松山晋也とつないでリレー完封だから、新指揮官の心は喜びで震えていたに違いない。

 三塁ベンチ前で監督インタビューが行われていると、その横をブルペンで待機していた藤嶋健人投手やチームスタッフらが通りすがりながら笑顔で聞き耳を立てている。そして拍手。指揮官と選手たちの距離感がうかがえるほほえましいシーンだった。

 プロ野球開幕。今年もまた数々の記憶に残る激闘が記された。

 昨年のリーグ覇者である巨人は開幕3連勝に対して、ソフトバンクは、よもやの3連敗。

 巨人が初戦を5点のビハインドから延長戦に持ち込み、サヨナラ勝ちを掴むと、その後は新戦力のトレイ・キャベッジ、甲斐拓也、そしてDeNAを戦力外になって入団した石川達也投手まで初先発初勝利では、阿部慎之助監督の笑いが止まらない。

 一方のソフトバンクは、ロッテ相手に競り負ける。中でも不運を象徴したのは第3戦だ。同点の8回。二死三塁のピンチで杉山一樹投手の投じたワンバウンのボールが何と海野隆司捕手の体とプロテクターの間にはまり込み、三塁走者の生還を許す。(野球規則5.06の適用)これが決勝点だから、まさに“泣きっ面に蜂”状態だ。優勝争いのライバルと目される新庄日本ハムはチーム63年ぶりの開幕3連勝を飾っている。

 スタートダッシュに笑う者と、つまずきに泣く者。そんな中で中日・井上監督の涙がひと際、印象に残った。

 3年連続最下位に終わった立浪和義前監督の後を継いだ。今年の下馬評も高くはない。そんな新指揮官の“売り”は、明るさと元気。そして自称「コミュニケーション・モンスター」と呼ぶ対話重視の姿勢だ。

 ともすれば「ミスタードラゴンズ」として、選手とは距離感のあった立浪時代から、共に汗して戦う熱血漢へ。地味で小粒な指揮官と言う声も聞かれたが、球団は二軍監督も務めた実務派にチーム再建を託した。

 沖縄キャンプでは、トレーニングウェアで球場に現れた井上監督が警備員に呼び止められたと言う笑い話がある。それほど顔も売れていないが、初勝利に涙する監督を慕う選手は多い

 DeNAとの3連戦は1勝2敗に終わった。3戦でわずかに1得点と課題の得点力不足は相変わらず解消されていない。開幕直前に四番候補の新外国人、ジェイソン・ボスラーをコンディショニング不良で欠き、同じくクリーンアップを期待した福永裕基選手も右膝靱帯損傷で長期離脱とピンチが続く。

 こんな時こそ求められるのはチーム一丸となって戦う姿勢だ。明るい材料では大学時代の腰痛で出遅れた即戦力ルーキー・金丸夢斗投手がウエスタンリーグで登板するなど一軍入りも近づいている。新監督の流した涙が今後のチームを変えていけるか、もう少し見守りたい。

 メジャーでは、トジャースの佐々木朗希投手が涙した。

 本拠地デビューとなるタイガース戦に先発したが、制球難2苦しみ2回と持たずに降板。井上監督がうれし涙なら、こちらは悔し涙にくれた。

 この10日あまりだけでも多くのスポーツシーンで涙は見られた。

 サッカーW杯出場を賭けたバーレーン戦前の国歌斉唱で日本代表・森保一監督が、フィギュアスケート世界選手権では史上初の4連覇を逃した坂本花織選手が、そして女子ゴルフでは工藤公康元ソフトバンク監督の愛娘・遥加選手がプロ15年目の初優勝に泣き崩れた。センバツ球児たちの涙も忘れない。

 スポーツには悲喜こもごもの涙がある。それぞれが感動や、ほろ苦い思い出を作り出し、また選手を強くする。

 新生ドラゴンズも、新監督の流した涙を無駄にしてはならない。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

この記事を書いたのは

荒川和夫

1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中

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