◆ 白球つれづれ2025・第18回
ショッキングなニュースが米国から伝わってきたのは、日本時間2日のことだった。メジャーリーグ、デトロイト・タイガースの前田健太投手が事実上の戦力外通告を受けた。
メジャー出場の前提となる40人枠から外れ、今後はウェーバーで獲得球団がなければ自由契約となり、その後はマイナー降格や、日本球界の復帰、さらには現役引退も考えられる。
近日中にも明らかになると思われる今後の進路。現時点での予測は難しいが、他球団への移籍や、日本球界復帰は確率が低いと見られている。
前田の今季年俸は1000万ドル(約14億5000万円、推定以下同じ)で契約解除後の残りは日割り計算され、獲得球団は残額の800万ドル(約11億6000万円)を引き継ぐことになる。
日本復帰の場合に有力視される古巣の広島でも当面は静観の構え。あまりに巨額の年俸がネックになると関係者は口を揃える。
2016年に広島からポスティングシステムを利用してドジャースに移籍してから10年目。タイガースで先発ローテの一角を狙ったが、思うように調子は上がらず、今季は中継ぎとして7試合に登板、0勝0敗、防御率7.88で一つの区切りを迎えた。メジャーで68勝。日米通算では165勝を上げた右腕も、近年は右肩の手術などで球威も衰えは隠せなかった。
1988年4月11日生まれの前田は現在37歳を迎える。
この88年生まれの選手は別名「マー君世代」とも呼ばれ、NPBの中でもひときわ大きな存在感を放っている。
「マー君」こと田中将大投手(巨人)を代表格に、前田、大野雄大(中日)、澤村拓一(ロッテ)の各投手。野手でも坂本勇人(巨人)、柳田悠岐(ソフトバンク)、秋山翔吾(広島)、宮﨑敏郎(DeNA)各選手ら、いずれも何がしかのタイトルを獲得している名選手揃いだ。
ところが、この88年世代が今季は何かにとりつかれたように全員が苦境に立たされている。
代表格の田中は巨人移籍後3度の先発マウンドに登ったが、早々とKOされる場面が多く5日現在の防御率は9.00。200勝まであと2勝と迫りながら再び二軍調整が続いている。自打球を右脛骨に当てて長期離脱中の柳田や、打撃不振で先発から外れた坂本などシーズン開始から満足なスタートを切れた選手はいない。
野球選手にとって、30代後半に差し掛かるこの時期は大きな曲がり角に直面する。高校を出てプロ入りした場合、約20年が経過。肉体的に下降カーブに差し掛かる上に、技術的な“貯金”も底をつく頃。特に投手の場合は肩、肘の故障で手術をするケースが多い。
田中や前田の場合も切れ味鋭いスライダーとフォークを武器に白星を積み上げてきたが、これも150キロを超す速球があれば通用しても、近年はそのストレートが145キロにも満たない。こうなるとよほどの制球力がない限り復活は難しい。
大エースたちにとって、晩年の大きな目標は名球会、200勝投手の仲間入りだ。田中はあと2勝。前田は残り35勝が必要となる。
しかし、現代の野球にとって200勝は的確な目標なのだろうか?
中4日で先発していた時代は20勝がエースの条件でも、今では15勝すれば御の字。単純計算しても15勝を14年連続しなければ200勝には到達しない。
彼らの上には45歳のヤクルト・石川雅規や平野佳寿(オリックス)、宮西尚生(日本ハム)らの40代投手もいる。肉体の衰えを技術でカバーする職人たちである。
「マー君世代」がこのまま、消えていくとは思えない。前田だって「マエケン体操」と「画伯」だけで記憶に残るわけにはいかない。
野球選手として、晩年をどうとらえて、巻き返しを図るか。
おじさんたちの進化が問われる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)