92年11月、プロ野球ドラフト会議で松井秀喜選手の交渉権を獲得、ガッツポーズする巨人の長嶋茂雄監督。右は阪神の中村勝広監督 (C)Kyodo News

 ミスタープロ野球、長嶋茂雄氏の死去から1週間。今なお追悼の声がやまないが、阪神ファンだった筆者にとっても、長嶋氏はいろんな意味で特別な存在だった。

 48歳の筆者は1985年の優勝を機にプロ野球にのめり込んだが、もちろん“長嶋選手”の時代を知らない。最も鮮明に記憶しているのは、1993年に始まった“長嶋監督”第二次政権の時代だ。

 前年オフに自身2度目となる巨人軍の指揮官に就任した長嶋監督。ユニフォームに袖を通す前に大仕事を一つやってのけた。それが1992年11月に行われた第28回プロ野球ドラフト会議での出来事である。

 1992年といえば、我がタイガースが“亀山新庄フィーバー”に沸き、2年連続最下位から2位に躍進した年。最終的に野村克也監督率いるヤクルトに苦杯をなめたが、投打にわたって若手選手が台頭し、関西は1985年以来の盛り上がりを見せていた。

 そんな中、迎えたのが巨人と阪神にとって運命の分岐点となったドラフトである。最大の注目は星稜高校のスラッガー、松井秀喜。高校生離れしたパワーを持ち、同年夏の甲子園大会で5打席連続敬遠をされたことは社会問題にまで発展するなど話題性も抜群だった。松井本人が阪神ファンを公言していたこともあり、縦ジマのユニフォームに袖を通す流れはできていた、と当時の阪神ファンは信じて疑わなかったはずだ。

 ドラフトでは阪神のほか、巨人、中日、ダイエーの計4球団が松井を指名。交渉権の獲得はくじ引きに委ねられた。結果的に最後にクジを引いた長嶋監督が右手でガッツポーズを作ることになったが、その直前の2分の1の幸運を獲り逃したのが阪神・中村勝広監督だった。

 阪神にとって、やはり逃がした魚は大きかった。外れ1位で超高校級左腕の安達智次郎を指名するも、同投手はプロの壁にぶつかり、一軍で登板がないまま99年オフに引退。阪神は93年と94年こそ4位に健闘するが、95年から星野仙一監督が就任するまで再び暗黒期をさまよった。

 一方で、10年に一人の逸材を獲得した巨人は、3年計画で松井を育成。見事に球界のスターに育て上げると、2002年オフにヤンキースに移籍するまでの10年間で、2冠王に3度輝き、巨人を4度のリーグ制覇に導いた。

 もし松井があのとき阪神に入団していれば、ライバル2球団の運命も大きく変わっていたかもしれない。ただ、たとえ松井が阪神に入団していたとしても、スーパースターとなっていたかどうかは分からない。

 当時の阪神は高卒選手の育成を苦手としており、ことごとく有望な若手の芽を摘んでいた。また、ドラフト時では内野手として指名された松井だが、三塁の守備には課題も抱えていた。

 長嶋監督は松井を迷わず外野に転向させたが、“ポスト掛布”の幻想を追っていた当時の阪神なら三塁手として育成することにこだわっていた可能性が高い。もしそうなら、打者としての才能開花も遅くなっていただろう。さらに本拠地の甲子園球場は、92年のシーズン前にラッキーゾーンを撤去したばかり。レフト方向に吹く浜風も左打者の松井には厳しい環境になっていたはずだ。

 8日に営まれた葬儀・告別式で、松井は弔辞を読み上げた。長嶋監督の退任後もともに“素振り”をする日々が続いたことを振り返り、「私は長嶋茂雄から逃げられません」と胸の内を明かし、最後に「今度は私が監督を逃がしません」とも。それを聞いた瞬間、「あのとき阪神が当たりクジを引いていれば……」という長年の阪神ファンとしての思いは消え失せた。

文=八木遊(やぎ・ゆう)

この記事を書いたのは

八木遊

1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。

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