「P B/T: S/S 5′ 11″/200 Age: 22」
パッと見てこの“暗号”を解ける人物は、そう多くないだろう。
正解は、左から「投手 打/投:両/両 5フィート11インチ(約180センチ) 200ポンド(約90kg) 22歳」である。
これは、マイナーリーグ公式サイトに掲載されたジュランジェロ・サインチェという投手のプロフィールで、S/Sの部分がひと際目につく。サインチェは昨年のMLBドラフトでマリナーズから1巡目(全体15位)指名された両投げ両打ちの投手である。
数多い若手選手の中でメジャー全体の有望株ランキングで88位、マリナーズ傘下では7位にランクインしているサインチェ。順調なら2年後の2027年にもメジャーへの昇格も想定されている。
もともとの利き腕が左のサインチェが右でも投げるようになったのは父の影響。オランダのプロリーグで投手としてプレーしていた父のグラブを使っているうちに右でも投げられるようになったという。
高校卒業時の2022年には、遊撃手としてブルワーズからドラフト18巡目で指名されたが、それを蹴ってミシシッピ州立大学に進学。大学で両投げ投手として頭角を現し、昨年のドラフトまでにトッププロスペクトの一人として注目を浴びる存在まで上り詰めた。
昨季はマイナーで1球も投げることがなかったが、今季は若手選手主体のオープン戦でプロデビュー。いきなり左右での投球を披露し、話題を独占した。
レギュラーシーズンが始まってからは、A+(シングルAとダブルAの間のハイA)のエバレット・アクアソックスに所属。これまで13試合に登板、うち10試合に先発し、4勝3敗、防御率4.67の成績を残している。
ただ、左打者が相手でも右で投げることが多く、左で投げる機会はそれほど多くない。その理由が、左投手としては制球に課題を残しているためだ。それでも、左右から150キロを超える速球を投げ込むことができ、制球難さえ克服できれば、いずれメジャーでも両投げを披露する日が訪れるかもしれない。
両投げ投手といえば、2015年から20年にかけてメジャーでプレーしたパット・ベンディットという投手がいた。中継ぎ投手として、メジャー通算61試合に登板、2勝2敗、防御率4.88をマークしたが、フォーシームは最速で140キロに満たない程度。135キロ前後のシンカーが主体の技巧派だった。ベンディットはメジャーで短命に終わったが、サインチェはドラフト1巡目の逸材だけに、少なくとも右腕として戦力になる可能性は高い。
今月はケガなどもあって1試合の登板に留まっているサインチェだが、今後、二刀流としてメジャーへの階段を駆け上がることができるのか。その成長を楽しみに待ちたい。
文=八木遊(やぎ・ゆう)