ロッテの小島和哉はホームで登板する時に登場曲として、R3HAB x Timmy Trumpetの『911』を使用しているが、そこに込められた思いがある。
話は2021年に遡る。当時プロ3年目の小島は、先発ローテーションに入って2年目で、先発定着、自身初の規定投球回を目指す立場だった。同年は東京五輪による中断前まで、5勝を挙げるも、防御率は4.69。東京五輪明けは最初の登板こそ6回2失点で勝利投手になったが、8月25日の日本ハム戦で4回1/3を投げ3失点、続く9月3日の日本ハム戦も4回1/3を投げ5失点と、2試合連続で5回を持たずに降板していた。
今季限りで現役引退を表明した美馬学から声をかけてもらったという。「僕は結構ネガティブなので、ポジティブな声をかけてもらって、それこそ僕が初めてプロ初完投した9月11日。2戦連続で打たれて、登板はないなと思っていたくらいなんですけど、登板のチャンスをもらえました。その時に美馬さんと話をしていて、“ファームでチャンスをもらえない子もいるし、今はチャンスをもらえているんだから、打たれたらとにかく練習すればいいじゃん”、“悲観的なメンタルでマウンドに上がるよりも、みんなの代表して投げているんだから、オジが打たれても誰も文句は言わないし、野球生活が終わるまではチャレンジして失敗しての毎日”。そういう話をしてもらったのを、今でもすごく覚えています。ちょっと調子が悪かったり、打たれたりした時も、本当にその時のことを思い出してというか、その時の気持ちを忘れないようにするために登場曲も題名だけでも『911』というのを使っているのもあります」。
9月11日の楽天戦(ZOZOマリン)、9回を一人で投げ抜き、自身初の完投勝利を挙げた。続く9月19日の日本ハム戦ではプロ入り初完封勝利を記録。9月11日の初完投をきっかけに調子を挙げた小島は、同年24試合・146回を投げ、10勝4敗、防御率3.76の成績を残し、自身初の規定投球回到達、二桁勝利をマークした。
「(美馬さんに)たくさんのことを教えてもらいました。(当時は)美馬さんとかが8回を投げて、僕とかが5回、6回とかでギリギリ勝ちをつけさせてもらっていた。今度は自分が逆の立場になって、8日の河村とか勝ったら僕もすごく嬉しい。少しでもチームのためにその魂を受け継いでやっていけたらなと思います」。
20、21年頃は美馬がチームのために長いイニングを投げていたが、現在はその役割を小島がしっかりと担い、21年から4年連続規定投球回に到達し、チームを代表する先発投手に成長した。“美馬の魂”を受け継ぎ、後輩たちのため1イニングでも長く投げていく。
取材・文=岩下雄太