93年に発売された『はた山ハッチのパロ野球ニュース!実名版』

 1980年代から90年代にかけて、大人気だったプロ野球漫画をご存知だろうか?

 はた山ハッチ(途中からやくみつる名義に)が描く、『パロ野球ニュース』(竹書房)である。単行本が全15巻も発売され、雑誌『月刊まんがパロ野球ニュース』も登場するほどだった。当時は携帯電話もほとんど普及しておらず、通勤時にサラリーマンが読むスポーツ新聞や男性向け雑誌が飛ぶように売れた。そこを主戦場に活躍したのが、あらゆる雑誌で野球4コマ漫画を連載する、やくみつるだった。

 なお、手元にある週刊ベースボール1988年3月28日号では、連載「やくみつるのセ相冗談」で巨人の大物新外国人ビル・ガリクソンを描いているし、最新号の週刊ベースボール2025年11月3日号でも連載「やくみつるの12球団ドガチャカ交流試合」が掲載されている。時代の流れで、昔の選手個人をイジる風刺画(時にやりすぎと読者が引いてしまう描写も多々あった)から、最近はポスティングやFAなどの球界全体のニュースをテーマにするソフトな内容に変わった印象だ。

 スーパーファミコンソフトの『はた山ハッチのパロ野球ニュース!実名版』(エポック社)の発売日は、1993年10月29日。この年の5月、サッカーのJリーグが華々しく開幕して、さかんに野球人気の低下が囁かれていた。その流れを阻止しようとプロ野球界が投入したのが、長嶋茂雄の巨人監督復帰という切り札だったわけだ。

 ちなみにあのサッカーW杯アジア最終予選、日本対イラクの“ドーハの悲劇″が93年10月28日の出来事で、テレビ視聴率はテレビ東京史上最高の48.1%を記録している。スーファミソフト『パロ野球ニュース!』は、日本中が三浦カズやラモスの話題で持ちきりの翌日にひっそりと発売された悲劇の野球ゲームでもあった。

 当時のエポックはバーコードを読み取り、その数値で戦う玩具「バーコードバトラー」が小学生男子の間で大ヒットしており、漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』では、少年ジャンプ1992年28号に「発見!最強バーコードの巻」が掲載されている。そこで『パロ野球ニュース!』にも、清原和博(西武)らの選手バーコードカードを特別封入。スーファミ本体にバーコードバトラーIIを接続して、試合中にタイム画面で選手名を合わせてからカードを読み取る…って野球ゲームとしては致命的にテンポが悪くなるんじゃと思わなくもないが、バーコードを使わない普通のオープン戦やペナントモードでも遊ぶことができる。

 ペナントではトレードや選手特訓だけでなく、試合内容や視聴率から収益金が分配され、強化アイテムを購入できる。いだてんスパイク80万、ロケットスパイク150万、熱血バット320万、エクスカリバット1000万と、エポックのファミコン野球ゲーム『ファミコン野球盤』でもお馴染みのシステムを採用。ただ、肝心の野球のプレー部分がかなり雑な作りで、ファミスタ風画面で異様に操作性だけを悪くしたみたいな凶悪なゲーム性に加えて、選手データも説得力は皆無である。

 ちなみに中古で購入したソフトには、かなりやり込んだペナントモードのセーブデータが残されていたが、確認すると巨人を使い、トレードで広島の江藤智を加入させる未来を先取りしたようなチーム作りで独走優勝している。個人成績は元メジャー本塁打王のバーフィールドが打率.466、72本塁打、152打点と全盛期のバリー・ボンズ以上の成績を残していたり、バント職人の川相昌弘も72本塁打でタイトルを分け合い、なぜか巨人に強奪されている佐々木主浩が28勝、野茂英雄も26勝と完全にリアリティが破綻している。

 バーコードを入力して強い選手を見つける「バトル野球盤」モードがメイン扱いだったり、ペナントで“マジックグラブ”を購入すると消える魔球や水平回転魔球が投げられる昭和の野球漫画のようなギミックの数々。対象年齢は小学校低学年を想定しているかのような本作だが、パッケージには親父達のカリスマ、はた山ハッチイラストというアンバランスさ。『はた山ハッチのパロ野球ニュース!実名版』は、その危うさがゲーム内容にも出ている怪作である。

 なお、2025年に中古ゲームショップで本作を探すと、バーコードカード封入の完品はなかなか見つからない。恐らく、小学生が友達の家で対戦する際にカードを持参して紛失したのかも……と30数年前のボンクラ男子に思いを馳せながら遊ぶのも、レトロ野球ゲームの楽しみではないだろうか。

文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)

この記事を書いたのは

中溝康隆

1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。2010年開始のブログ『プロ野球死亡遊戯』が話題に。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人を担当し初代日本一に輝いた。主な著書に『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)『令和の巨人軍』(新潮社)ほか。新刊『巨人軍vs.落合博満』(文藝春秋)も絶賛発売中! 

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