ソフトバンク・東浜巨 (C) Kyodo News

◆ 白球つれづれ2025・第45回

「まだ第一線で投げたい」。

 ソフトバンクの東浜巨投手が、苦渋の決断を下した。FA(フリーエージェント、以下同じ)による他球団への移籍に新たな道を選んだのだ。

 プロ13年目の35歳。FA申請の締め切りを2日後に控えたぎりぎりの決断だった。

 東浜と言えば、少なくとも4年前までは常勝・ホークスの屋台骨を背負うエースだった。2012年に亜細亜大からドラフト1位で入団すると、順調に主力投手として成長。通算76勝46敗、防御率3.30と安定した数字を残してチームに貢献してきた。22年オフには3年契約を結んだが、その後は成績が下降カーブをたどり、契約最終年の今季は一軍出場が7試合にとどまり4勝2敗と不完全燃焼のシーズンとなった。

 年齢を考えれば、衰えの側面も否めない。だが、ベテランエースにとってはチームの若返り策によって、弾き出されている悔しさもあるのだろう。

「一番は出場機会というところ。まだまだ一軍の舞台で先発をやっていきたい」と東浜はFA申請に至った経緯を語る。

 阪神を倒して5年ぶりの日本一を掴んだ日本シリーズでも、盤石の投手陣が際立った。

 リバン・モイネロ、有原航平、上沢直之に大津亮介を加えた先発陣に、杉山一樹、松本裕樹、藤井皓哉の鉄壁の抑えまで剛腕を揃えている。

 加えて、オフには更なる若返りと強化のため、武田翔太、又吉克樹ら実績のあるベテランや昨年DeNAから獲得したばかりの濵口遥大投手らにも戦力外通告。それでも前田悠伍、松本晴ら有望な若手がいる上に、故障明けのカーター・スチュワート・ジュニア投手ら戦力底上げを期待出来る人材は多い。

 東浜に関して、球団ではFAを宣言したうえで残留の可能性も残しているが、本人の思いも考慮すれば、移籍の道が確実視される。

 近年はFA以上にポスティングシステムによる移籍が注目されている。

 ヤクルトの村上宗隆選手や巨人の岡本和真選手、西武の今井達也投手らの米国移籍が大きな話題を呼んでいるが、彼らの多くはFA資格を取得する前に球団が移籍を容認するポスティングでメジャー挑戦の権利を得ている。

 現地の一部報道によれば村上で8年1億5850億ドル(約244億9000万円)、今井には同じく8年で1億9000万ドル(約292億6000万円)の契約金が予想されている。大谷翔平や山本由伸選手ら日本人メジャーリーガーの活躍もあって評価はうなぎ上り。球団にとってもFAで移籍されるより、巨額な譲渡金が発生するポスティングの方が旨味がある。

 こうした一部のスーパースターと違って、国内で宣言されるFAは東浜のような、選手生命の曲がり角に差し掛かった者や出場機会を求めた切実なケースも多い。

 そもそもFAとは、長年一軍で活躍してきた選手に与えられる権利。「国内FA」は1シーズンに145日以上一軍登録され8シーズンに達する事が取得条件(2007年以降入団の大学・社会人は7年)となる。

 今オフで言えば中日の柳裕也、松葉貴大投手や楽天の則本昂大投手。野手ではDeNAの伊藤光捕手や日本ハム・石井一成選手らが権利行使と見られている。その多くは年齢が30台半ばを迎えたり、出場機会を求めてFA宣言する選手が多い。

 球団側に目を向けるとFA選手の獲得は人的補償や金銭補償が発生する事が多いが、それぞれ実績のある選手だけに戦力アップに直結する。

 すでに阿部巨人は投手陣の補強を明言。中日の柳や、今季限りでメジャーから日本復帰を明らかにした前田健太投手などを調査リストに入れている。他にもアンソニー・ケイ、アンドレ・ジャクソン投手らの流失が危惧されるDeNA、今井と髙橋光成両エースがメジャー移籍確実な西武や、契約満期で再度メジャー挑戦を視野に入れる有原が抜けた場合のソフトバンクなどFA戦線に名乗りを上げそうな球団は多い。

 もう一つの巨大な爆弾は阪神の近本光司選手の去就だ。現時点でFA申請されていないので、大型長期契約で残留が有力視されているが、もし急転宣言でもあれば巨人を含めた大争奪戦に発展するのは確実だ。

 選手の「商品価値」が問われ、球団の戦略も明らかになるFAシステム。

 さて、東浜が来季どこのユニホームを着て、どんな活躍をするか? 野球人生の大きな分岐点を迎える。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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