◆ 新天地に旅立つベテランキャッチャー

 FA権を行使し、楽天への移籍が決まっている伊藤光。今シーズンは正捕手の山本祐大、成長著しい松尾汐恩、ベテランの生え抜き・戸柱恭孝の3人が一軍で奮闘する中、なかなか昇格の声がかからぬ日々を過ごした一年だった。しかしファームでは打率.309と自慢の打棒は顕在。且つ若いピッチャーを引っ張り続け、チームに“諦めない”風潮を言動で示してみせた。

 オリックスからトレード移籍して8年が経ち「愛着がある」と公言するベイスターズ。しかし活躍の場を求め、断腸の思いで旅立つ決断をし、シーズンラストイベント『BAY BLUE FESTIVAL』でファンに直接感謝の意を表した。自由参加のイベントながら「ベイスターズファン、自分のファン含めてものすごく応援していただきました。みなさんと触れ合えるところは正直この日しかないので、行かない選択肢はなかったです」と迷わず来場。「直接こちらから『ありがとう』という言葉をかけるのが筋だと思うんですけれども、これからチームが変わっても応援するという言葉をたくさん頂いて。みなさんとお話ができて良かったです」と回想する姿に、律儀な人柄が滲み出る。
 
 イベント最後の企画の野球勝負ではマウンドに上がり、場内は大歓声に包まれた。「なんか緩く野球やってんなと思ったので、シュッと締めたろうと思ってやりました」と豪速球を投げ込みつつ、マスコット相手に隠し玉を敢行するなど、本番プレーさながらのフレキシブルさを見せエンジョイ。

 大活躍にファンもヒートし「あそこまで大きな声援をいただけたのは、ちょっと僕の中では予想外でした。引退じゃないので泣くのは違うなと思って。実は結構震えたんですが…」とセンチメンタルな気持ちになったと吐露しながらも、最後のベイスターズでのユニフォームの一日に満足げな表情を浮かべた。

◆ 選手も感謝


 
 ファームで鍛錬をし続けていた今シーズンの伊藤光。即戦力ドラフト1位として期待されながら、なかなか調子が上向かなかった竹田祐は「ファームで結構捕って頂いていたのですけれども、不甲斐ないピッチングばかりで…本当に申し訳なかったなというのが一番の思いですね」とまず反省。続けて「2軍では先発投手集めて勉強会をしてもらったりとか、こうしたほうがいいよとか試合中でも教えていただいたことがありました」と自らの経験を惜しみなく伝授してくれた先輩の心遣いに頭を垂れる。

 キャプテンの牧秀悟も「自分も1年目から一緒に戦っていましたし、まだまだ教わりたいことも多かったので、移籍するってこと、チームからいなくなるということはやっぱりさみしい気持ちがありますね」と遠征時電車移動でともに行動する仲だっただけに、心の冷えを感じる。しかし「もちろん引退されるわけではないので。球場で会うこともあると思うので、その時にはまたご飯でも行ければなと思います」とこれからもその縁はつながり続けると切り替えていた。

 ベイスターズの上昇期を攻守で下支えし、2年前は苦しむトレバー・バウアーの女房役として大活躍へと導いた背番号29。横浜での想いを胸に、仙台でも“ヒカルの抱擁”を見せ続ける。

写真・取材・文:萩原孝弘

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