99年に渡米し10年にわたってMLBでプレーした大家友和氏(写真=Getty Images)

◆ 白球つれづれ2025・第51回

 ヤクルトから、メジャー挑戦を表明していた村上宗隆選手の進路が決定した。

 日本時間21日深夜に飛び込んできたニュースはシカゴ・ホワイトソックスへの入団が決まったと言うもの。2年契約で総額3400万ドル(約52億7000万円)と報じられている。(金額は推定、以下同じ)

 ヤクルト時代の今季年俸が6億円とされているから、約4.5倍に跳ね上がる計算だ。この先も岡本和真(巨人)今井達也、髙橋光成(いずれも西武)選手らがメジャー球団との入団交渉を控えている。“メジャーバブル”の話題が年末年始の野球界を席巻しそうである。

 注目度も、話題性も満点の彼らの去就が「光」としたら、ひっそりと海を渡る男たちもいる。「影」のような存在か?

 今季限りでロッテを退団した石川歩投手が、先頃オランダの野球チーム、オースターハウト・ツインズで来季もプレーすることを発表した。

 石川と言えば、2013年にドラフト1位で入団。翌14年には新人王、16年には最優秀防御率(2.16)のタイトルを獲得するなど一時代を築いたエース。近年は肩痛などの故障で不本意なシーズンが続いたが、本人とすればまだまだ野球への情熱は衰えることなく、37歳の再出発を決意したものだ。

 今季限りで広島から戦力外通告された宇草孔基選手も、米国での挑戦を明らかにしている。まだ28歳。マイナーからでも這い上がる覚悟は出来ている。

 他にも前DeNAの京山将弥投手や、前巨人の戸田懐生投手らが韓国野球で新たな挑戦を決めている。

 新たにプロ野球の門を叩く者がいれば、その数だけ整理されていく者もいる。近年はFAや海外挑戦が当たり前の時代。その分、雇う球団と雇われる選手との関係もビジネスライクになっている。若くして整理対象になったりすれば、新たな職場を海外に求める選手が出ても不思議ではない。

 2023年に楽天でパワハラ事件を起こして、自由契約となった安樂智大投手は翌年からメキシコに渡り、メキシコシティ・レッドデビルズで抑え投手として活躍している。DeNAから同じくメキシコに渡った乙坂智選手は今季途中に帰国すると巨人と契約している。メジャーで華やかに注目を集める選手は一握り。むしろ、人知れず、ギリギリのところで勝負を挑む男たちが多い。

 こうした無名ながら、海外に挑戦して活路を開いた代表格が元横浜ベイスターズ(現DeNA)の大家友和投手である。

 1993年ドラフト3位で入団した大家は在籍6年で8勝17敗と満足な成績を残していない。それでもMLBへの憧れは強く、球団から自由契約を勝ち取ると99年にはレッドソックスとマイナー契約を結ぶ。

 その後の旅路がすさまじい。レッドソックスの後はエクスポズ、ナショナルズ、ブルワーズ、ブルージェイズなど8球団を渡り歩く。その間2002年のエクスポズ時代にはチーム最多の13勝、05年のブルワーズでも11勝を上げるなどメジャー通算51勝を記録、在籍期間も10年を過ぎてMLBの生涯年金も獲得している。

 だが、栄光と隣り合わせの生活はメジャーだけでなく、マイナー契約との繰り返し。さらに晩年はメキシコや日本の独立リーグでもプレー。10年に古巣のベイスターズに復帰も翌年に自由契約。これで現役に幕を閉じるかと見えたがその後もMLBのトライアウトに参加するなど、これぞ“雑草魂”を発揮した。

 この秋、中東ドバイに誕生したプロ野球リーグ「ベースボール・ユナイテッド」に参加して、プレーオフではMVPを獲得したのが川崎宗則選手だ。

 元ソフトバンクから、こちらもマリナーズやブルージェイズなどで活躍。帰国後は台湾でプレーしたかと思えば、現在も独立リーグの栃木ゴールデンブレーブスに在籍するなど44歳の今も精力的な活躍が続く。

 彼らに共通しているのは、野球への限りない愛情と情熱だ。スポットライトが当たっていようが、当たっていなくても。稼げるお金が少なくても、真摯に人生と向き合っている。

 燃える尽きるまで。新たに海外挑戦を決めた石川や宇草らの“第二の人生”にも注目していきたい。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

この記事を書いたのは

荒川和夫

1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中

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