1987年から横浜DeNAベイスターズがキャンプの拠点としている沖縄県宜野湾市。今年も『2026 SPRING CAMP Supported by Umios』と銘打たれた聖地で、選手たちは23日に無事打ち上げを迎えた。シーズンに向けて牙を研ぐ選手を間近に見られるのはキャンプの醍醐味だが、今年はグラウンド外でも、ある「挑戦」がファンの熱い視線を浴びていた。
それは、宜野湾海浜公園の中央広場に設置された特設ステージで行われたライブショー。キャンプ地を彩るパフォーマンスの裏には、球団が描く緻密な戦略と、地元への深い愛があった。
◆ キャンプ地を「沖縄を満喫できる目的地」へ
春季キャンプPJのリーダーを務めた町田氏はこの試みに至った経緯を明かしてくれた。
「従来の春季キャンプでは、コンテンツがグッズショップやキッチンカーに限られていました。そのため、せっかく来場してくださったお客様も、練習見学が終わると沖縄を満喫するために別の観光地へ移動してしまう。そんな課題を感じていたんです」
目指したのは、キャンプ地そのものを「目的地」へと進化させること。滞在時間を延ばし、終日楽しんでもらうためには、キャンプ地の外でしか味わえなかった「沖縄ならではの魅力」を場内で提供する必要があった。そこで着目したのが、沖縄のアイデンティティである「音楽」だった。
「ローカルアーティストを招聘し、現地のサウンドを練習場所のすぐそばで体感していただく。そうすることで、ファンの方々が移動することなく、終日この場所で沖縄の魅力を満喫できる環境を作りたいと考えました」
◆ 島国の洗礼と、三線が紡いだ確かな手応え
しかし、屋外運営は一筋縄ではいかない。宜野湾特有の強風により、5日間中2日間のステージが中止になるなど、自然の厳しさを学ぶ機会ともなった。
だがそれ以上の確かな手応えもあった。それは初日からファンの熱を感じ取れたからに違いない。2月7日に地元宜野湾在住のユニット『宙(ソラ)の鳴き声』が登場。キャンプ特別デザインの「紅型アロハ」を纏った二人が奏でる三線の音色が響くと、ユニフォーム姿のファンが、次々と足を止めた。球団歌を織り交ぜたパフォーマンスに、会場は一気に「横浜×沖縄」の空気に染まった。
「練習を見た後、そのままキャンプ地で沖縄の空気に浸っていただく。当初の意図が形になったことを実感しました。天候という課題があったからこそ、お客様がここを離れずに満喫できる可能性を十分に提示できた初開催になったと思います」
◆「空白日」を埋めた熱狂と、選手の横顔
この熱気は、意外な場所にも波及していた。象徴的だったのが、宜野湾からほとんどの選手が不在となるビジター練習試合日(15日)だった。ステージが始まると、人影のまばらだったステージ周辺の空気は一転し、「ライブが聞きたいから、北谷(試合会場)へ行かずにここに残った」というファンまで現れた。その歌声は、室内練習場で調整していた山﨑康晃の元にも届いき「聞いてましたよ」と、練習の合間にその歌声に耳を傾けていた。
この日、自他共に認めるベイスターズファン、『ポニーテールリボンズ』のポカ・ユイチンは、選手の個人名を歌詞に織り込んだ限定ライブを披露。ステージ後、興奮冷めやらぬ表情でこう語った。
「『令和の勝利大臣』ことポニーテールリボンズは、ベイスターズを全力で応援しています。今回は全国から集まってくれたファンだけでなく、地元の皆さんも足を止めて聴いてくれて、予想以上に大盛り上がりになったのが本当に嬉しかったです。本当にブルーライトシリーズとかに出られたら最高です!」
◆「最高の練習環境」と「最高のファン体験」の共存
18日には隣接する沖縄コンベンションセンターで、相川七瀬や髙橋優斗ら豪華ゲストが集結した『Haisai Carnival 2026 Supported by FOD』も開催。野球の枠を超え、街とファンを繋いだ今年の試みは、キャンプの新しい可能性を示す大きな一歩となった。
球団が描く未来図は、さらにその先にある。
「今回実施した各ステージは、練習見学をより豊かな気持ちで楽しんでいただくための『プラスアルファの魅力』。キャンプ地を一歩も出ることなく、練習見学の興奮と沖縄の余暇を地続きで楽しめる。そんな環境が整うことで、まだキャンプに来たことがない方にとっても『キャンプを見に行ってみたい』と思っていただくきっかけになれば嬉しいです」
そして、さらに先にあるのは、悲願の栄冠だ。
「私たちが目指すのは、多くの方に足を運んでいただき、そこで生まれたファンの皆様の熱気が、優勝に向けて邁進するチームへとダイレクトに伝わっていくような場所です。『最高の練習環境』と『最高のファン体験』が共存する、横浜DeNAベイスターズならではのキャンプ地づくりを、今後も目指していければと考えています」
野球の枠を超え、街とファンを音楽で繋いだ今年の宜野湾キャンプ。宜野湾の空に産まれた確かな熱は、戦いの場横浜の街へと向かい、力強く吹き抜けていく。
取材・文・撮影=萩原孝弘