減少傾向にあるなかで...
打撃主要3部門という言葉があるように、「打率」「本塁打」「打点」の3つは、シーズンを通して常に注目される成績だ。
通算記録でも、本塁打なら王貞治(元巨人)、安打数なら張本勲(元東映ほか)、さらに盗塁なら福本豊(元阪急)など、野球ファンならそれぞれのプロ野球記録保持者を思い浮かべることができるだろう。
しかし、本塁打に次ぐ長打である三塁打の場合はどうか。外野手の間を抜くような大きな当たりを飛ばし、打者走者が二塁ベースを蹴った瞬間に観衆を大きく沸かせ、快足と中継プレーとのギリギリの勝負で魅せる――。そんな、野球において最もスリリングなプレーのひとつであるにもかかわらず、あまり注目されることはない。
今回はそんな“不遇”のプレー、「三塁打」に着目してみたい。下記は、NPBにおける通算三塁打記録のベスト5である。
【NPB・通算三塁打】
1位 115本 福本 豊
2位 106本 毒島章一
3位 103本 金田正泰
4位 99本 川上哲治
5位 88本 広瀬叔功
歴代No.1は、世界の盗塁王こと福本氏。ちなみに、現役選手では64本で17位の松井稼頭央(楽天)がトップになる。ただし、松井は日米通算では84本となり、一気に広瀬に次ぐ順位までジャンプアップする。
昨季はケガにも苦しみ、日本復帰後最少の56試合の出場に終わった松井。今季はレギュラーを奪還と100試合出場を目標に掲げ、巻き返しを図っている。
しかし、これから順位を上げていくことは容易ではない。2011年に楽天に加入した松井であるが、それ以降で記録したシーズン自己最多三塁打は2012年の4本。松井に限らず、近代野球において三塁打は明白な減少傾向にある。
その要因としては、守備力の向上がひとつ。現在と比べ、かつては外野からの中継プレーというのが未完成で稚拙だった。「ライパチ」という言葉もあったように、守備が苦手な選手を外野に起用する傾向もあった。そしてそれに伴い、三塁ベースコーチが安全策を取って以前より打者走者を二塁で止めるようになった、ということもある。
ここでもイチローのすごさが...
「三塁打」のシーズン記録も見てみよう。金田正泰氏の18三塁打(1951年)をトップに、上位のほとんどが1940年代、1950年代に記録したものとなっている。
1960年代以降の最多記録は。シーズン記録5位に当たる13本。60年弱という長い期間において、13本に到達したのは吉岡悟(1976年/当時太平洋)、松井(1997年/当時西武)、村松有人(2003年/ダイエー)、鉄平(2009年/楽天)、西川遥輝(2014年/日本ハム)のわずか5人だけだ。
ちなみに、昨季のシーズン三塁打数トップは、セ・リーグは大島洋平(中日)の9本、パ・リーグが西野真弘(オリックス)の7本と、いずれも2ケタに届いていない。そんな、“三塁打・冬の時代”において、期待したいのはやはり西川だろう。
もともと天性のスピードという武器を持っているうえに、研究熱心。三塁を狙うときには、二塁から直線的に三塁へ向かう独自の走塁ルートを編み出し、しっかりと結果を残している。しかも、昨季は打撃そのものが大きく開花した。今後、飛躍的に三塁打を増やす可能性がある。
最後に、三塁打を語るうえで外せない選手を紹介しよう。マーリンズのイチローである。
イチローの日米通算三塁打は、昨季マークした5本を加えて119。実はすでにNPB最多記録である福本の115を超えているのだ。
日米通算安打数で張本氏のNPB最多安打記録:3085本を抜いた2009年や、ピート・ローズのMLB最多安打記録:4256安打を更新した昨季は、スポーツメディアは当然として、一般的なニュース番組でも大きく報道されたのを覚えている方も多いことだろう。
しかし、実はその陰で、三塁打でもイチローがひっそりとNPB記録を抜き去っていたことを知っている人はそんなに多くないのではないだろうか。
MLBにおいては「野球のプレーのうち、最も面白いもの」とも評される三塁打。近年は特に減少傾向にあるために、目撃チャンスも少ない。
そんなスリリングで希少な「三塁打」に注目してみてはいかがだろうか。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)