勢いが止まらない
首位を走る広島と2ゲーム差で迎えた首位攻防3連戦。阪神は5日の第1ラウンドを逆転勝利で飾った。勝利の立役者は、3安打3打点挙げた捕手の梅野隆太郎と2本のタイムリーを放った糸井嘉男の2人。特に糸井は、現在9試合連続安打中とその勢いは止まらない。
オフにオリックスからFAで移籍してきた糸井だったが、キャンプ前の1月下旬に右膝痛で離脱。決して順風満帆のスタートではなかった。しかし開幕2週間前の3月中旬に図ったようにオープン戦で戦列に復帰すると、開幕後は中心打者として阪神打線を牽引している。
ここまでチームの全28試合に3番センターで先発し、打率.330、4本塁打、23打点、3盗塁という申し分ない成績を残している。また、得点圏打率は驚異の.500(26打数13安打)をマークするなど、クリーンアップの一人としてセ・リーグで最も恐れられる打者の一人になりつつある。
また出塁率はセ・リーグ1位の.444をマークしており、走者をかえすだけでなく、チャンスメークの役割も果たしている。まさに理想的な3番打者として、早くもチームに欠かすことのできない選手になったと言っていいだろう。
そんな糸井は、オリックス時代の昨季に盗塁王を獲得。35歳シーズンでの盗塁王は福本豊氏(阪急)、大石大二郎氏(近鉄)と並ぶ最年長記録だった。移籍初年度の今季は、ここまで3盗塁と数字は伸びていないが、開幕から1か月以上が経過し、セ・リーグの投手にもそろそろ慣れてくる時期。昨季は6月以降に盗塁を量産したこともあり、史上初となる36歳シーズンでの盗塁王、そして史上2人目の両リーグでの盗塁王も夢ではないだろう。
他にも打率は現在リーグ4位につけており、オリックス時代の2014年に続く首位打者も十分狙えそうだ。もし同じ年に首位打者と盗塁王に輝けばプロ野球史上4人目となる。過去に達成した3人(広瀬叔功氏=1964年、佐々木誠氏=1992年、イチロー=1995年)はいずれもパ・リーグに所属。セ・リーグの選手として初の快挙に挑む。
この年齢にして、打撃面以外でもこれだけの可能性を感じさせてくれる選手は糸井以外にどれだけいるだろうか。思い返せば、現在阪神の指揮を執る金本知憲監督も現在の糸井とほぼ同じ年齢で広島から阪神にFAで移籍。1年目(2003年)から3番打者としてチームを引っ張り、18年ぶりのリーグ優勝に貢献した。
幾つかの個人記録達成も見据える糸井だが、本人が最も欲しているのは自身もまだ経験していない日本一の称号ではないだろうか。果たして、半年後に糸井はいったい幾つの称号を手にしているだろうか。
文=八木遊(やぎ・ゆう)