どら増田のオリ熱魂!〜第3回〜
5月に入って苦しい戦いを強いられているオリックスだが、勝利の方程式の一角として、4月2日の楽天戦(京セラD)から8回を任されているドラフト2位のルーキー黒木優太が存在感を示している。
16日のソフトバンク戦(京セラD)まで13イニング連続無失点、16試合に登板して1勝10ホールド防御率2.30と、安定した活躍を見せている。
今回は“魂のエース”と呼ばれていたジョニーこと、元ロッテの黒木知宏氏(現北海道日本ハム投手コーチ)の現役時代にあやかって、背番号54を選んだ“オリのジョニー”の魅力に迫りたい。
胸を打ったファンの応援
「ああいう試合展開にもかかわらず、途中雨が降ってきてもライトスタンドのファンの皆さんが、誰一人として帰ろうとせず、チームを応援しているのをブルペンで見ていて、凄く胸を打たれました」
12日にほっともっと神戸で行われた西武戦(0-11の大敗)のブルペンで感じたことを、黒木はこのように振り返った。
ほっともっと神戸のブルペンはグラウンド内に設置されているため、中継ぎを任されている投手には球場の空気感がダイレクトに伝わる。黒木はさらに言葉を続ける。
「あのファンの皆さんの姿を見て、1人のプロ野球選手として、ファンを喜ばせるプレーをしなければならないということを再確認させられました」
あの日は大敗を喫したが、諦めず最後まで全力で応援しているファンの姿が、1人の選手の気持ちを動かしたのは事実である。そしてこんな思いを胸に登板した16日のソフトバンク戦(京セラ)で、黒木は嬉しいプロ初勝利を挙げる。試合後、初のヒーローインタビューを終えるとライトスタンドの「黒木コール」に笑顔で応えた。
「1点でも取られちゃダメ」
しかし、舞台を神戸に移した2日後の同カードでは、1点ビハインドの場面で登板。髙谷裕亮のセーフティースクイズで14イニングぶりに失点を許すと、続く川崎宗則にはフルカウントから低めのストレートを弾き返され、センターの頭上を襲う適時二塁打となった。
黒木は2/3回でKO。代わったヘルメンもタイムリーを許したため、自責点は「3」。試合前まで「0.60」だった防御率は「2.30」まで上昇した。初の途中降板を経験した黒木は、ベンチに下がっても表情を変えなかったが、いろいろな思いが頭の中を過ったことだろう。
「中継ぎは1点の重みが違うので、1点でも取られちゃダメなんです。1点台ということは1点取られたということなので、満足はしてません」
まだ防御率が1点台(しかも失点したのは1試合だけ)だった先月のこと、報道陣から防御率について聞かれると、黒木はまだまだと顔を引き締めながらこう語っていた。
飽くなき向上心
プロに入って納得できる投球はまだできていないという。
「どのレベルまで行ったら納得できるのか?」という問いには、少し考えてから「相手もこれから僕のことを知って、研究されると思いますし、たぶんこの先も納得することはないでしょうね」と答えていた。
4月18日の日本ハム戦(草薙)では、一打同点のピンチを空振り三振で切り抜け「ピンチを抑えればチームに流れがくる」ことを肌で感じるなど、マウンドに上がるたびに成長と進化を続けている。
指揮官の思いと適性
「選手にとって一番生きる場所で使ってあげたい」
春季キャンプやオープン戦を通じて、福良監督は選手が一番生きる場所(ポジション)を探ってきた。当初は先発として調整していた黒木だったが、春季キャンプの時に、クローザーの平野佳寿がWBCに選出されたこともあり、「もし後ろで投げろと言われたらどう思いますか?」と聞いたことがある。
それに対する答えは「そう言われたらすごく光栄なことだと思います」という前向きなものだった。その謙虚さと志の高さで、福良淳一監督をはじめベンチの信頼を勝ち取っているのだろう。
昨年のドラフトでは、ファウルでカウントを取ってからスライダーで三振が取れること、空振り率の高さ、気持ちで負けない雰囲気、ベンチでの顔つきなどが高く評価されて上位指名されただけに、セットアッパーとしてハマる要素はもともと兼ね備えていた。
魂のセットアッパーとして
「目標は1年間怪我をしないで、1軍で過ごすことです」
黒木の目標は仮契約後の会見のときから一貫している。怪我の予防対策としては「準備に力を使って、アフターケアに神経を使う」ことを心掛けているとのこと。プロの恵まれたコンディショニング環境もフル活用しているようだ。
ちなみに、気になる“本家”ジョニー黒木氏との初対面については、日本ハム戦の際、既に挨拶を済ませており、「もう遠慮しなくてもいいからね」と声をかけられたという。“魂のエース”から伝承された“魂のセットアッパー”オリのジョニー。飽くなき向上心とファンの思いを胸に、気迫の投球で躍動する姿を見せてもらいたい。
文=どら増田(どら・ますだ)