コラム

辻野球を支える西武の機動戦士

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11日のDeNA戦、4回1死三塁、秋山の二塁ゴロが野選となり本塁に滑り込む三走金子侑。ビデオ判定でセーフとなり西武が先制。捕手戸柱=メットライフドーム

白球つれづれ~第15回・驚異の機動力破壊~


 足にスランプはない。昔から野球界に伝わる金言だ。打撃はあのイチローだって4割には届かない。だが、機動力は時として相手投手を脅かし、守備を混乱に陥れる。その上、自チームには新たな勢いをもたらす。そんな武器を手に入れたのが今年の西武だろう。

 11日のDeNA戦。勝敗を分けたのは昨季の盗塁王・金子侑司の足だった。

 4回裏。一死三塁。秋山の放った打球は前進守備を敷く二塁に転がる。打球をさばいたエリアンから本塁へ送球、タイミングはアウトに見えたがヘッドスライディングした金子侑の左手が一瞬速く、ホームベースに触れていた。終わってみればまさに「虎の子」の1点で完封勝利。6日からの巨人戦でも源田壮亮と秋山翔吾のダブルスチールで粉砕している。6月8勝1敗1分け。新監督・辻発彦による隙のない機動力野球はかつての黄金期を見ているようだ。

 究極の走塁をさらに分析してみる。この場面、ベンチの決断と走者の脚力と瞬間の判断、さらに打者には打球を最悪でもゴロで転がすことが求められる。ベンチから出されたサインは「ゴロゴー」。つまり、打球をゴロと判断した瞬間にスタートを切らせる。三塁走者の金子侑は文句なしのスタートを決めた上に本塁上のクロスプレーに対して瞬時でヘッドスライディングを選択。足から滑っているとアウトのタイミングを頭から飛び込み、手で行くことで捕手・戸柱のタッチをかいくぐることが出来た。まさにこれぞプロの至芸である。


新指揮官の下での変革


 意識改革はキャンプから始まった。ヘッド格の野手総合コーチである橋上秀樹が辻野球の本質を語る。

 「去年までは大駒はいても守走はお粗末だったが、監督が代わってもともと走れる選手に着目した。多少のバッティング難には目をつぶっても総合的に判断して走れて守れる選手を起用することを決断。(走守の重要性を)監督が折に触れて話してくれるので効果も大きい」

 昨年までは打力に定評のある山川穂高や坂田遼らの出番が多かったが、彼らは守備走塁には難がある。前年まで左翼を守っていた栗山巧にも足肩の衰えを見抜いたうえで指名打者に転向させている。代わって起用されたのが外崎修汰や木村文紀らの機動戦士。確かに2人とも打率は低空飛行が続いているが、秋山や金子侑と組む外野陣は俊足強肩の鉄壁な布陣となった。それが投手陣に安心感を与える好循環にもつながっている。

 11日現在、チーム盗塁数50はリーグ断トツのトップ。同15の楽天、ロッテと比べると実に3倍以上の威力を発揮している。ちなみに昨年のチーム盗塁は97でリーグ4位だから大変身と言ってもいいだろう。盗塁だけでなく、中村剛也やE・メヒヤらの重量級大砲まで一塁への全力疾走を実践している。チーム好調の因はこんなところにもある。


辻野球の陰に名将の存在!?


 監督の辻が目指すのは西武黄金期を築いた広岡達朗譲りの基本に忠実でスキのない野球だ。加えてコーチ陣の顔ぶれを見ると面白い特徴がある。辻も選手の晩年に移籍したのがヤクルトなら、前述の橋上も内野守備走塁担当の馬場敏史もヤクルト出身。三人とも名将・野村克也の薫陶を受けている。

 「僕らは現役時代、みんなバイプレーヤーだったので、そのあたりの重要性や生かし方は相通じるものがあるかも」とは橋上の弁だ。

 地味ながらも広岡プラス野村ID野球を受け継ぐニュー西武。貯金も今季最多の「11」と膨らみ、交流戦王者も手の届く位置にある。足にスランプなし。このチーム、前評判よりしたたかなのは間違いない。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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