鳥谷以来の開幕一軍
阪神のルーキーでただひとり開幕一軍を勝ち取った糸原健斗が、奮闘を続けている。
6月10日のソフトバンク戦。2回、一死満塁のチャンスで迎えた打席。カウント2-2から、捕手・甲斐拓也の要求は外角低めだった。ところが、先発・松本裕樹の投じた直球は、わずかに甘く内に入る。これを逃さず思い切り引っ張った打球は右翼線を鋭く抜け、あっという間にフェンスにまで到達。走者が2人還り、これが決勝の2点適時二塁打となった。
文句なしでこの日のヒーローに選ばれた、島根県出身の24歳。地元の強豪・開星高から明治大、社会人JX-ENEOSを経て阪神に入団した。ちなみに昨季の新人王・高山俊と坂本誠志郎は大学の1年後輩。ユニフォームはタテジマに変わったが、再びチームメートとして戦うことになった。
プロ入り後は春季キャンプの紅白戦で左翼フェンスに直撃する二塁打を放ち、「実戦向きで面白い」と金本知憲監督の高評価を得ると、新人では唯一の開幕一軍メンバー入り。球団の内野手としては2004年の鳥谷敬以来で13年ぶりの抜擢であった。
“年下の先輩”には負けられない
ドラフト時の評価は『走攻守のバランスが取れた選手』。本来は二塁や三塁がメインだが、遊撃も無難にこなすユーティリティー・プレーヤーだ。5月半ばころからは、打撃の調子が上がってこない北條史也に代わり、遊撃手としてのスタメン出場が増えつつある。
ここまでの打率は.257。プロのレベルの前に順風満帆とは言えないが、交流戦以降に限定すれば39打数の13安打で6打点。打率.333と打撃の状態は上向きだ。
10日のソフトバンク戦では、2回の適時打に続き、先頭で打席に立った4回にもヒットを記録。真ん中に甘く入ったチェンジアップをまたも引っ張って右中間へ運び、この日、両チームでただひとりマルチ安打を記録した。
キャンプで金本監督が注目した打席を含め、もともとは逆方向への打撃の評価が高かった糸原。実際のところ打球方向は全体的に左寄りで、安打も左方向へ打ち返したものが約4割を占めているが、甘いボールはしっかり引っ張って強い打球を飛ばすことができている。
とはいえ、もちろん課題もある。大活躍の10日ソフトバンク戦でも、なんでもない遊ゴロを送球エラー。出場機会が限られている割には失策が多く、守備にはまだまだ粗さが目立つ。
それでも、昨季大きく飛躍した北條のライバルとして楽しみな存在であることは間違いない。高卒で入団した北條より糸原は2歳上。“年下の先輩”には負けられない。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)