白球つれづれ~第27回・山口俊問題~
巨人がDeNAとの激しいAクラス争いを展開している。夏前には球団ワーストの13連敗を喫して絶望の淵に立たされたことを考えれば、よくぞここまでの感もあるが、一方では元々、戦力は優勝争いをしていてもおかしくない。数々の誤算と「戦犯」がいて現在の位置にいる。
その問題児が、山口俊だ。昨オフにFA権を行使してDeNAから移籍。年俸を含めた総額は3年契約で約10億円(推定、以下同じ)と言われている。投手陣の陣容を見てもエースの菅野智之にM・マイコラス、田口麗人と三本柱が確立されて、夏場からはルーキーの畠世周が台頭してきた。ここに山口が加われば盤石の先発ローテが完成するはずだった。いわば「V奪還の使者」として迎えられた男が、満足に投げられないばかりか、事件を起こして今も球団と係争中では開いた口が塞がらない。
発端は7月11日未明に起こった泥酔による傷害と器物破損事件だ。自らの右手にケガを負い、訪れた都内病院でドアを破損。さらに駆けつけた警備員に全治2週間のけがを負わせたとして書類送検される(のちに起訴猶予)。
この事態を重く見た球団は8月18日に山口と話し合い、処分を発表。野球協約60条に照らして(1)「今季いっぱいの出場停止」、(2)「罰金」、(3)「減俸」が言い渡された。罰金と減俸の総額は1億円を超えたとされる。
事態は意外な展開に…
「自分の軽率な行動でこのようなことを起こしてしまい申し訳ありません。今後、野球人としてこのようなことが起こらないよう自分を律してまいります」とこの時点では殊勝に頭を下げた山口だが、事態は意外な方向に進展する。わずか10日後の8月28日には(労組)日本プロ野球選手会が今回の処分に疑義を呈したのだ。
選手会側の言い分は「全選手の契約に影響を及ぼす可能性のある極めて重大な問題」として、巨人球団に対して抗議。処分の再検討と契約見直しの撤回を求めている。
その主な理由として、逮捕事案でなくすでに被害者との示談が成立しているので総額1億円以上のペナルティーは重過ぎる、不当なものと主張。加えて「処分のほか、巨人軍と締結していた複数年契約の見直しを迫り、これに同意しなければ契約解除するとの条件を提示して同意させた」と交渉の舞台裏まで暴露した。
この問題は今後、実行委員会の席で話し合われるなど、決着は今後の推移を見守るしかない。だが山口にとってもう一つの大きな「爆弾」を自ら抱え込むことになったのは間違いないだろう。
選手会の主張は山口と巨人の当事者しか知り得ない事柄が含まれており、山口本人か代理人が伝えたのは明らか。一度は神妙に反省の弁と態度を見せたのが、わずか数日後には球団に反旗を翻したに等しく巨人側の怒りは相当なものと言われている。
正念場はここから!?
一般社会で見れば、会社と従業員の間には就業規則がある。反社会的な行動や会社の信用を著しく傷つけた場合は解雇の適用もあり得る。プロ野球選手の場合は個人事業主であり球団との個別契約だが、今回のケースなら話し合いには弁護士や代理人が同席するのが常識。つまり、契約解除も含めた球団側の「脅し」に屈したという山口側の言い分が一方的に通るとは思えない。
もちろん、球団側にも「過去に比べて最も重い処分」(石井一夫球団社長)に踏み切るお家の事情もある。近年は野球賭博問題などの不祥事が相次ぎ落ち着いて野球に打ち込む環境すら出来ていない。
そこへ、大きな期待をかけて獲得したエース候補がキャンプから肩の違和感で出遅れ、6月に戦列復帰を果たしたと思ったらわずか1勝で自爆。DeNA時代から酒癖の悪さを指摘され、大舞台での勝負弱さも指摘されてきた。それでも大枚をはたいて獲得した巨人にすれば、飼い犬に手をかまれた心境か?今のままでは本当に来年以降の複数年契約が履行されるのか、といぶかる声もある。山口の真のピンチはこれからなのかも知れない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)