白球つれづれ~第39回・選手の表彰と賞金額
ドラフト会議から新入団選手の発表。契約更改にファン感謝デーとプロ野球界はシーズンオフの行事が目白押しだ。
「行く人」大谷翔平に「来る人」清宮幸太郎で話題独占の日本ハムは26日に行われたファン感謝デーに新たなサプライズを用意した。主砲・中田翔の新主将発表。これまでのキャリアや実績からすれば順当とも思えるが、ファンの反応は歓声とブーイングが相半ばだったとか。理由の1つは今オフにFAによる退団も囁かれたこと。さらに今季の成績が自己ワーストで厳しい批判にさらされたこともあるだろう。ことほど左様に選手の値打ちはその年の活躍によって左右されるものだ。
こうした観点から近年、首をかしげたくなるのが球界の表彰と副賞にあたる賞金額だ。今月20日に都内ホテルで開かれた「NPBアワード」では最優秀選手や新人王、ベストナインなど各種表彰が行われた。その年に最も活躍の顕著な監督や選手だけの出席が許される華やかな舞台。最優秀選手に選出されたD・サファテ(ソフトバンク)と丸佳浩(広島)には各賞金300万円が、さらにサファテには「正力松太郎賞」として500万円、さらに最多セーブのタイトル料として100万円が授与されている。チームの日本一に大車輪の働きを見せた助っ人なら一晩で1000万円近くの荒稼ぎも納得である。
しかし、ここである疑問も浮かぶ。最優秀選手とは長丁場のペナントレースを戦い、各リーグで最も活躍の顕著な選手。それが、同じく活躍した選手や監督に贈られる「正力賞」より賞金額が少ないのか?まだある。球界を代表するベストナインの賞金は50万円。最も優秀な完投能力を有する投手に贈られる「沢村賞」は巨人の菅野智之が受賞したが、こちらは300万円。あまりに格差がありバランスを欠いていないか?
賞金格差の事情
この賞金格差の理由は簡単だ。「正力賞」や「沢村賞」は元々、新聞社が制定したもので、いわゆる「スポンサー付き」。対して、それ以外はコミッショナー及びセ、パ各連盟による表彰。懐具合がこの違いに表れている。もっと言うなら巨人やソフトバンクなどが表彰する球団別MVPは、輸入車の販売業者が後援しているため、約700万円の外車が贈られる。
問題は高額賞金の方ではなく、それ以外の賞が旧態依然のままで、本当に球界のナンバーワン選手たちにふさわしい額なのか?という点にある。20年ほど前には、年俸が1億円に達する選手は数えるほど。それが今では3億や4億のサラリーも珍しくない。メジャーリーグに目を転じればさらにその10倍まであり得る。常日頃、魅力のあるプロ野球、ファンに愛される球界を合言葉にするなら、このあたりの改革も必要だろう。プロの評価は結局、金銭となるわけだ。
現在、NPBの財源は6社からなるNPBパートナー、各球団からの拠出金や侍ジャパンなどの営業活動などが主体だ。しかし、MLBと比較しても組織そのものが脆弱であり、日本のナンバーワン・スポーツを統括していくうえで課題は山積している。
かつて、野球界は一部球団を除いて収益性が低く、親会社に赤字補てんを頼る球団が大半だった。最近はそれぞれの営業努力で、そうした傾向から脱却しつつある。弱体組織から本格的なスポーツビジネスに生まれ変わろうという時期だからこそ、総本山であるNPBには、より一層のリーダーシップが求められる。
新たな時代へ
サッカーに目を転じれば、Jリーグそのものに、保険会社の冠スポンサーがついている。野球界でも交流戦が同様な形で行われているのだから、ペナントレース自体を「売る」発想があってもいい。野球人気の危機が叫ばれて久しい。テレビ地上波の中継が減り、来季からは一部ラジオ中継の撤退も囁かれている。
こうした時期に次期コミッショナーの就任が明らかになった。米国資産運用会社の日本法人会長を務めていた斉藤惇氏だ。これまで法曹界からの起用が多かったが経済人の抜擢は時代の要請でもあるのだろう。
冒頭の話題に戻れば最高殊勲選手には1000万円、ベストナインには各300万円くらいが時代の相場と思うがどうか?それには斬新な改革と稼げる組織が必要なのは言うまでもない。新コミッショナーの手腕に注目である。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)