飛躍の予兆になる要素
2017年シーズン、2位・阪神に10ゲーム差をつける圧勝でセ・リーグ2連覇を果たした広島。その強さの源といえば、12球団最多の736得点を生み出した打線。そして、その打線を構成する選手たちのバランスの良さだろう。
田中広輔、菊池涼介、丸佳浩に安部友裕という20代後半の“同級生カルテット”を中心に、ベテランの新井貴浩、さらに鈴木誠也ら早くに才能を開花させた若手たち、そこに外国人が絡み合い強力打線を作り上げている。
個人差こそあるが、野球選手が全盛期に向かって覚醒しはじめるのは20代半ばころからだろう。であるなら、これから強くなっていくチームには若手になんらかの“芽吹き”がある。セ・リーグにおけるその芽吹きを、ごく限られた要素ではあるが、ここでは本塁打数で検証してみたい。
まずは広島が悲願のリーグ制覇を果たす前年である2015年。田中、菊池、丸が26歳になる年度だ。彼らの“学年”にならい、当時25歳以下で開幕を迎えた(1989年4月2日以降生まれ)選手たちの球団別本塁打数を振り返ってみる。
【2015年開幕時・25歳以下選手の本塁打数ランキング】
1位 44本 DeNA(6位) ☆筒香嘉智(24本)、白崎浩之(6本)、嶺井博希(5本)
2位 43本 ヤクルト(1位) ☆山田哲人(38本)、中村悠平(2本)
3位 41本 広島(4位) ☆丸佳浩(19本)、田中広輔・菊池涼介(8本)
4位 11本 阪神(3位) ☆江越大賀(5本)、梅野隆太郎(4本)、伊藤隼太(2本)
5位 9 本 中日(5位) ☆高橋周平(4本)、杉山翔大(3本)、桂依央利(2本)
6位 5 本 巨人(2位) ☆小林誠司(2本)、大田泰示・橋本到・岡本和真(1本)
※1989年4月2日以降生まれ
※カッコ内はペナントレース順位
☆は本塁打を放った主な選手
広島は僅差でDeNA、ヤクルトに続く3位。しかし、その内訳を見ると状況は異なるようだ。リーグVを果たしたヤクルトはトップのDeNAに1本差に迫る本数を記録しているが、44本のうち38本は山田哲人ひとりによるもの。一方、ペナントレースでは4位だった広島は、若き主力としてレギュラーに定着した“タナキクマル”が活躍。丸の19本を筆頭に、田中と菊池がそれぞれ8本で続いている。
また、DeNAでは44本のうち24本は筒香嘉智によるものだが、その他のメンバーで20本を記録。この年のペナントレースでは最下位ではあるものの、翌2016年からのCS連続進出へ向かって打線が活気づきはじめていたと見ることもできるだろう。
若手を積極起用する阪神が広島のライバルに!?
では、現在の状況はどうだろうか。2017年シーズンの成績を見てみよう。以下は2017年シーズンを25歳以下で迎えた(1991年4月2日以降生まれ)選手たちの球団別本塁打数だ。
【2017年開幕時・25歳以下選手の本塁打数ランキング】
1位 50本 DeNA(3位) ☆筒香嘉智(28本)、桑原将志(13本)、嶺井博希(3本)
2位 49本 阪神(2位) ☆中谷将大(20本)、大山悠輔(7本)、高山俊・原口文仁(6本)
3位 45本 広島(1位) ☆鈴木誠也(26本)、バティスタ(11本)、西川龍馬(5本)
4位 26本 ヤクルト(6位) ☆山田哲人(24本)、山崎晃大朗・西田明央(1本)
5位 10本 巨人(4位) ☆石川慎吾(5本)、宇佐美真吾(4本)、山本泰寛(1本)
6位 8 本 中日(5位) ☆京田陽太(4本)、高橋周平(2本)、近藤弘基・溝脇隼人(1本)
※1991年4月2日以降生まれ
※カッコ内はペナントレース順位
☆は本塁打を放った主な選手
広島は2015年に続いてわずかな差で3位。田中、菊池、丸らは“卒業”したものの、主砲に成長した鈴木が活躍。そこに西川龍馬、カープアカデミー出身のバティスタら若手がきっちり台頭してくるあたりはさすがといえる。トップのDeNAでは、筒香は当然として、桑原将志の飛躍が目を引く。わずか2試合で2本塁打を記録した細川成也も将来に向けて楽しみな存在だろう。
様変わりしたのが阪神だ。金本知憲監督が就任時に掲げた「超変革」のスローガンの下、2015年の11本から49本に大幅アップ。10人という本塁打を記録した開幕時25歳以下の選手の数ではDeNAの7人を上回るトップである。今後、広島にとって怖い存在となっていくのはもしかすると阪神なのかもしれない。
2017年は、ペナントレースにおける上位・下位が、このランキングにもそのまま反映された。ヤクルトは2015年と変わらず山田頼みの状況であり、世代交代問題を指摘される巨人と中日には大きな改善が見られない。
もちろんこのランキングは、本拠地球場のちがい、さらに若手を積極的に起用する、あるいは起用せざるを得ないといったチーム状況にも左右されることもある。しかし、その経験を積ませるということが、長期的に勝てるチームを作るためには重要なのではないか。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)