コラム

乙坂だけじゃない!メキシコでの武者修行を全うしたもう一人の男、ルシアノ・フェルナンドの覚悟

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メキシコのウインターリーグでプレーしていた楽天のルシアノ・フェルナンド [写真=阿佐智]

「来年が最後だと思って」


「僕ももう25歳。来年が最後だと思っていますから。何かを変えなくちゃと思ってここに来ました。今年はもっと野球をやりたかったです。とにかくゲームをこなしたいですね。海外の野球を経験したいってのもありましたし」

 昨年末、クリスマス前のメキシコ・グアダラハラにある球場でルシアノ・フェルナンドは、試合前のバッティング練習の合間にもかかわらず自分の思いの丈を丁寧に語ってくれた。

 DeNAの乙坂が4割を超える打率を残して凱旋したことで話題になったメキシコのウインターリーグ、「メキシカン・パシフィック・リーグ」には、彼だけでなく、楽天からオコエ瑠偉とフェルナンドも武者修行に来ていた。

 11月のリーグ開始当初、オコエのニュースは日本に度々飛び込んできていたが、フェルナンドの消息は全くと言っていいほど入ってくることはなかった。そのことは、そのまま彼の現在の立場を表している。


決断


「今年(2017)は、一軍にいたのが数日。それで使われたのが代走でした」

 打撃を持ち味とする彼が、ピンチランナーのみの出場機会に終わったことで、チームにおける自身の立ち位置を肌で感じたのだろう。フェルナンドは、ウインターリーグでのプレーを球団に直訴し、球団もその申し入れを受け、受け入れ先を探してくれた。メキシコ行きは偶然で、たまたま開幕直前にマサトラン・ベナドスというチームで正外野手に予定していた選手が故障したため枠に空きが出たからだった。

「球団にはホント感謝しています。ドミニカでもベネズエラでもどこでもよかったんです。もう行き先なくてもとりあえず行かせてもらおうかとも思っていたんですけど、(ウインターリーグの)開幕直前に『決まったから、すぐ行け』ってことになり慌てて飛行機に乗りました」

 そういう事情はつゆ知らず、早々にリリースを言い渡されたオコエとともに帰国していたのではないかと思っていたが、この日、取材した球場でビジターチームの監督から彼が現在もメキシコでプレーしていることを知らされた。バッティングケージの横で順番を待つフェルナンドの姿は、他の選手たちにすっかり溶け込んでいた。

「ファンも含めてみんな僕のことを日本人だとは思っていませんから。その分チームにはすぐに溶け込めましたね」

 ブラジルから出稼ぎにきた日系ブラジル人の子として5歳から日本で育った彼は、家庭ではブラジルの公用語であるポルトガル語、家を出れば日本語というバイリンガルな環境で育ったこともあって語学は堪能。英語とメキシコの公用語であるスペイン語も話すため、キャンプなしの合流でも、チームに馴染むのには苦労しなかったという。


メキシコで得たもの


 実際にメキシコに来て感じたのはそのレベルの高さだ。この国には夏に16球団による国内プロリーグ、メキシカン・リーグが行われるが、ここでプレーする選手がある意味淘汰され、8球団制のウインターリーグに参加する。

 さらにウインターリーグにはメジャーリーガーを含む、アメリカでプレーしていた選手も加わる。そのレベルについて選手たちは「3A級」と口をそろえるが、実際は「3A以上メジャー未満」と言って差し支えない。

 フェルナンド自身、「日本の一軍と二軍の間くらい」というこのリーグに身を投じて壁に当たった。合流当初はスタメン、クリーンナップも任されたが、リーグも終盤に差し掛かるにつれて、ベンチを温める機会が増えた。この日も、途中の守備から出場、8回表にこの試合唯一の打席に立ったが、サンフランシスコ・ジャイアンツのセットアッパーを務めていたセルジオ・ロモの外角の変化球にバットが出ず見逃し三振に終わっている。

 また、メキシコに来て改めて日本の環境の良さも痛感した。このリーグはその名の通りメキシコの太平洋岸、約1万キロにわたって展開される。移動は基本的にバスだ。本拠のリゾート地、マサトランでは球団からコンドミニアムを与えられているが、ビジターゲームの過酷さは、日本のファームの比ではないとフェルナンドは言う。

「僕、こう見えても、体弱いんです(笑)。やっぱり食事なんかもダメですね。今日も何度もトイレで吐きましたよ」

 そういう過酷な環境の中でフェルナンドが得たものが決して小さくないことは、できることならば、メキシコでの冬のシーズンを全うしたいということからもうかがえた。


背水の陣


 日本に出稼ぎに来ていた両親はすでにブラジルに帰り、フェルナンドが契約金で建てた家に住んでいる。日本育ちのフェルナンドに永住権はあるものの、遠い先のことを考えると、やはりブラジルに帰ることになるのではないかと言う。

「そういうことまで考えると、やっぱり自分はブラジル人なのかとも思いますね」

 考えたくはないだろうが、「最後」と位置付ける今シーズンの結果次第では、難しい決断を迫られるかもしれない。それならば、メキシコで野球を続けることもできるのではないかという少々意地悪な問いを投げかけると、少々間を置いて答えが返ってきた。

「確かにこっちで野球して楽しいなと思いましたね。将来的に声がかかれば、どうかなとも思いますが、やっぱりまずは日本で勝負です」

 その打力には多くの関係者が期待している。楽天は、自軍選手のウインターリーグ参加に関しては、「野球留学」という立場をとり、派遣に関する費用はすべて球団持ちだ。いわば、球団にとっては選手に対する先行投資とも言える。そのことにフェルナンドのへの最後の期待がにじみ出ている。

 メキシコでの武者修行が花開くのか、2018年、ルシアノ・フェルナンドの背水の陣をとくと見てみたい。


取材・文=阿佐智(あさ・さとし)
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